こういう構図のジャケットって、なんか前にもあったような気が。
サックスをゴミ箱に投げる、A・C・リードのアリゲーター盤があるけれど、
もっとそっくりなヤツがあったような気がするんだけどなあ、
う~ん、なんだっけ。思い出せない。
ま、そんなどーでもいい話は横に置いといて、
マルチニークから、また新たなジャズ・ピアニストが登場しましたよ。
現在27歳という、グザヴィエ・ベラン。
ピアノを弾く父親の影響から、13歳でクラシックを始め、
のちにジャズやマルチニークの伝統音楽を学んだという経歴の持ち主です。
エルヴェ・セルカル、グレゴリー・プリヴァ、マエ・ボーロワと、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-12-16
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-01-22
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2019-08-29
ここのところマルチニーク出身の若手ピアニストの活躍がめざましいんですが、
このグザヴィエ・ベランのマルチニーク伝統音楽濃度は、エルヴェ・セルカル未満、
マエ・ボーロワ以上、グレゴリー・プリヴァよりは少し濃いめといったところでしょうか。
ジャケットで、ベランが竹筒の打楽器バンブー=フラペを放っていたり、
バンブー=フラペをチ・ブワ(短いスティック)で叩くリズム・パターン、
「タッ、ピ、タッ、ピ、タッ」のオノマトペから取った『ピタッピ』を
タイトルとしていることに明示されるとおり、
マルチニークの伝統リズムであるベレを、ベランは積極的に取り入れています。
ちなみに、フランス発の記事に勘違いしているテキストが散見されるので、
以前にここで書いたことを繰り返しますけれど、
ジャケットに写る竹筒をチ・ブワと呼ぶのではなく、
竹筒を叩くスティックの名称がチ・ブワなので、間違えないでくださいね。
チ・ブワは、バンブー=フラペばかりでなく、ベレの大太鼓の外側を叩くこともあります。
先達のアラン・ジャン・=マリーやマリオ・カノンジュたちのビギン・ジャズに比べて、
マルチニーク新世代のピアニストたちは、
ビギンやマズルカなどのクレオール・リズムより、
ベレなどアフロ系リズムにアプローチしているのが特徴ですね。
このアルバムもアルバム導入部のイントロと最後のオウトロで、
チ・ブワが刻むリズムを象徴的に登場させています。
曲はベランのオリジナルが中心で、カヴァーは、マルチニークの有名曲である
フランツ・シャルル=デニス(フランシスコ)作の‘Fanm Matinik Dou’ と、
セロニアス・モンクの‘Evidence’ の2曲。
メンバーは、グレゴリー・プリヴァと18年に来日したドラムスのティロ・ベルトロに、
ベースのエルヴィン・ビロニアン、ヴォブラフォンのアレクシス・ヴァレの4人。
ティロ・ベルトロはベランと同じマルチニーク出身で、
エルヴィン・ビロニアンはパリ生まれでも、母方の祖母がマルチニーク出身で、
マルチニークの音楽にも通じています。
ベランはかなりエッジの立ったピアノ・プレイを聞かせていて、冒頭から攻めまくり。
全体を通して聴けば、コンテンポラリ-・ジャズの枠を越える驚きはないものの、
その熱量の高さは、ワクワク・ドキドキさせられるに十分。
ピアノのタッチの粒立ちの良さは、クラシックの基礎をしっかり習得している証しだし、
リズムにのせていくスリリングなスピード感は、群を抜いています。
ドラムスのティロ・ベルトロも、来日公演で聞かせてくれた
柔軟でシャープなドラミングを披露しているし、
ベースのエルヴィン・ビロニアンの細かなパッセージでグルーヴを生み出すところも、
ウナらされます。アレクシス・ヴァレのヴァイブが、ベランのピアノとともに疾走したり
離れたりと、キビキビとプレイしていて、フレッシュです。
欲を言えば、ピアノがソロを取っている間、他の楽器がバックに回ってしまうだけの
場面が多く、アレンジがラフなところがちょっと不満かなあ。
もっとアンサンブルの緊密度を高めた、現代的な構成を求めたいところ。
きっと次作ではそんなあたりも解消してくれそうな、期待の才能です。
Xavier Belin "PITAKPI" Déluge DLG006 (2021)