南ア・ジャズの巨匠であるピアニスト、
ダラー・ブランド(アブドゥラー・イブラヒム)のデビュー作が、
初のオリジナル・ジャケット仕様でアナログ・リイシューされました。
リイシューしたのは、イタリアのLP復刻専門レーベルのハニー・パイ。
CDでは、すでに5年前にスペインのフォノが、
ザ・ジャズ・エピスルズとの2イン1でリイシューしましたが、
その時は記事にしなかったので、書き残しておきましょう。
フォノがザ・ジャズ・エピスルズと2イン1にしたのは、なかなか秀逸な企画で、
ザ・ジャズ・エピスルズは60年1月22日の録音、そのわずか2週間後の2月4日に、
ダラー・ブランドのデビュー作が録音されたんですね。
メンバーはブランドに、ジョニー・グルツのベース、マカヤ・ンショコのドラムスという、
ザ・ジャズ・エピスルズからヒュー・マセケラ、ジョナス・グワングワ、
キッピー・モケッツィの3管を除いたピアノ・トリオ。
南ア黒人による初のジャズ・アルバムとなったザ・ジャズ・エピスルズと、
ブランドのデビュー作は、いわば姉妹盤といえるものなのでした。
「スフィア・ジャズをプレイする」のタイトルどおり、
セロニアス・モンクの影響を堂々、表明しています。
あ、スフィアとは、セロニアス・モンクのミドル・ネームですね。
ブランドの自作曲のほか、モンクの‘Misterioso’ や、
モンクがよく演奏した‘Just You, Just Me’ を取り上げています。
ブランドの自作曲‘Eclipse At Dawn’ の楽想なんて、もろにモンク風。
ただ、このレコードを聴いて強く感じるのは、モンクよりも、むしろエリントンの影響。
左手が生み出すストライド・ピアノゆずりの強靭なリズムは、まさにエリントン直系。
分厚い和音でピアノをフルに鳴らすところは、エリントンばかりでなく、
ファッツ・ウォーラーなど、マイクが発達する以前のピアノ・サウンドを継承しています。
ぼくはこれを聴くと、エリントンとミンガスとローチの凶暴トリオが生み出した
“MONEY JUNGLE” をいつも連想してしまうんですけれど、
タッチの重量感やノリの感覚は、かなり相通じますよねえ。あれほど凶暴じゃないけど。
そういえば、“MONEY JUNGLE” は62年録音。
ブランドのデビュー作の録音の2年後ですけれど、
ブランドのデビュー作は、ザ・ジャズ・エピスルズとともに、
南アでは62年になってから、ようやく発売されたんでした。
あまりに時代を先取りしすぎていて、発表をためらわれたんでしょうね。
当時アメリカでこのレコードが聞かれていたら、さぞ驚かれたんじゃないかな。
[LP] Dollar Brand "PLAYS SPHERE JAZZ" Continental ZB8047 (1962)