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ぬくもりを伝えて グレッチェン・パーラト

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Gretchen Parlato  FLOR.jpg

なんて温かな声なんでしょうか。
人と人とが触れ合えなくなってしまったいま、
誰もが渇きや飢えを覚えている、肌のぬくもりや体温を、
グレッチェン・パーラトが音楽を通して伝えてくれている。
そんなことを実感させられる、素晴らしい新作です。

スタジオ録音は10年ぶりという、グレッチェン・パーラトの新作。
ぼくは13年のライヴ盤で初めてグレッチェンを知り、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-11-06
後追いで10年の“LOST AND FOUND” と09年の‘IN A DREAM’ を聴いて、
すっかりグレッチェンのファンになりましたけれど、
当時からは見違えるほど自信に満ちた、確信のある声を彼女は獲得したんですね。
この声が、ジャズ・ヴォーカル表現を新たなステージに呼びこんだんだなあと、
あらためて感じ入りました。

新作のテーマは、ブラジル音楽。
ジョアン・ジルベルトの名唱で有名な‘É Preciso Perdoar’ に始まり、
ピシンギーニャのショーロ名曲‘Rosa’ を取り上げるばかりでなく、
バッハ作曲のチェロ組曲をショーロ風スキャットで歌ってみたり、
ロイ・ハーグローヴの‘Roy Allan’ をサンバ・アレンジで聞かせるなど、
グレッチェン流儀のブラジル音楽解釈は、彼女のスタイルとしてすっかり定着しましたね。

今回起用したミュージシャンは、ギターのマルセル・カマルゴ、
チェロのアルティヨム・マヌキアン、ドラムスのレオ・コスタと、
いずれもロス・アンジェルスのミュージシャンで、
これまでニュー・ヨークのジャズ・ミュージシャンと一緒にやってきた
エッジの効いたサウンドとは色彩感が変わり、丸みを帯びた甘やかなものになりました。

このトリオのサウンドのポイントとなっているのは、ベースでなくチェロを起用したこと。
ボサ・ノーヴァやサンバの曲も、ナイロン弦でなく鉄弦のギターを使い、
あえてバチーダを刻まないところは、工夫をしていますねえ。
テナー・ギターのように聞こえるギター・サウンドが耳残りします。

ゲストにジェラルド・クレイトン、アイルト・モレイラと、
グレッチェンのパートナーであるマーク・ジュリアナが加わっています。
デヴィッド・ボウイが生前最後にレコーディングした‘No Plan’ を演奏した、
マーク・ジュリアナを起用したカヴァーでは、17年のグレッチェンの来日公演で
マークのドラムス・セットが一番よく観える席に陣取って、
マークのドラミングをガン見したあの夜を思い出しました。

びっくりしたのは‘Sweet Love’。5拍子の曲でオリジナルかと思ったら、
アニタ・ベイカーのあの名曲だと知って、ビックリ。いやぁ、ぜんぜんわかんなかった。
てか、ここまでアレンジしてしまうと、とても同じ曲とは思えませんね。
ジェラルド・クレイトンのエレピがすごく効いてます。

グレッチェンのヴォイスは、肉感的な豊かさに加えて官能性にも満ちていて、
出産を経て、ひと回り成長した姿を見せています。
子供たちのコーラスを交えた‘Wonderful’ は、
ジョイスの“FEMININA” のお母さん像と、見事にダブります。名盤の証明ですね。

Gretchen Parlato "FLOR" Edition EDN1170 (2021)

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