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南ア・エレクトロ・ポップの実験場 スポーク・マタンボ

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Spoek Mathambo Mshini Wam.jpg   Spoek Mathambo  Father Creeper.jpg  
Spoek Mathambo Mzansi Beat Code.jpg   Spoek Mathambo  Tales From The Lost Cities.jpg
Spoek Mathambo  Hikikomori Blue.jpg   Fantasma  Free Love.jpg

南ア電子音楽の才人、スポーク・マタンボのデビュー作“MSHINI WAM” の衝撃は、
いまも忘れられません。
いまだから正直に告白しますけれど、
『ポップ・アフリカ800』の選盤にあたってすごく悩んで、結局選ばなかったのも、
本作のクオリティの問題では全然なくって、選者であるぼくの方が、
この音楽を語るヴォキャブラリーを持ち合わせていないからなのでした。

エレクトロなんてまったくの門外漢なうえ、
ジョイ・ディヴィジョンのカヴァーがあるといったって、
ジョイ・ディヴィジョンなんて聞いたことないし、というありさまでは、
的外れなコメントしかできないこと必至じゃないですか。情けない話なんですが。
『ポップ・アフリカ800』とほぼ同時に出版された
『アフロ・ポップ・ディスク・ガイド』に的確な評が載せられていたのを読んで、
ホッとしたことをよく覚えています。

そんな電子音楽門外漢のぼくでも、夢中になったスポーク・マタンボでしたが、
このデビュー作以降まったくフィジカルが制作されなくて、悔しい思いをしていたんです。
いつだったか、スポーク・マタンボのレーベル・サイトに、
CDも出してほしいとオファーをしたりしたんですが、
月日も経ち、すっかりそんなことも忘れていました。

それがある日突然、スポーク・マタンボ本人から、
「CDを作ったよ」というメールが届いたのには驚かされました。
喜び勇んで「全部買うよ!」と返事したところ、マタンボが主宰するテカ・レコーズの
関連作品まで、どっさりオマケを付けて送ってくれたのでした、

あらためて、デビュー作の“MSHINI WAM” から最新作の“HIKIKOMORI BLUE” まで
順にじっくり聴いてみたんですが、1作ごと趣向を変えていて、
サウンドの実験場となっているフレキシブルな制作態度に、感嘆しました。
やっぱりこの人の音楽性の広さと深さは、ズバ抜けていますね。

ジョナス・グワングワの甥っ子として85年に生まれ、
ソウェトのタウンシップで育ったヒップ・ホップ世代のマタンボは、
南ア黒人音楽の伝統を継承し、前進させるために登場したサラブレッドだったんですよ。
ポスト・アパルトヘイトの南ア社会の現実を鋭く撃った“MSHINI WAM” の衝撃は、
今あらためて聴き返しても、まったく色褪せていません。

アメリカでもリリースされた12年の第2作は初めて聴いたんですが、
デビュー作のポスト・ダブステップといえるエレクトロなトラックが半分と、
残り半分はドラムス、ギター、シンセのスリー・ピースの生演奏をバックにラップしたもの。
ニルヴァーナやマッドハニーを擁したグランジの牙城というべきレーベル、
サブ・ポップがリリースした作品というので身構えていたんですが、
シンプルなロック・サウンドとなっていたのは意外でしたね。マタンボのフロウも軽快で、
ダークなデビュー作とはかなり雰囲気が違っています。
南アでは、ソニーからリリースされていたんですね。

5作目を数える17年の“MZANSI BEAT CODE” は、
がらっと趣向が変わって、80年代末のシカゴ・ハウスを思わすトラックに始まります。
それがやがてEDMへと繋がっていき、太いギターとベースが轟音を響かせるロックまで、
アフリカン・エレクトロを縦断する圧巻の作品です。
ラスト・トラックは、子供のコーラスをフィーチャーしたマスカンダ・エレクトロで、
国籍を問わないクラブ・サウンドと南ア音楽を接続させた、
まさしく南ア・ポップ・サウンドの実験場。

20年の“TALES FROM THE LOST CITIES” は初のラップ・アルバム。
南アの多くのラッパーが政治的なトピックを取り上げないというマタンボは、
人種や階級間に存在する不均衡をテーマとした、社会批評色濃い作品に仕上げました。
ラップのストーリーテリングを豊かにするサウンドメイクは実に多彩で、
ディープ・ハウス、ダンスホール・レゲエ、南ア・ジャズがパッチワークされています。

そして、今年1月に出たばかりの“HIKIKOMORI BLUE” は、またもハウス色濃い作品で、
ストーリーテリングは封印され、インスト中心のアルバム。
「アフリカ人 引きこもり 低音 実験的ヒップホップ」の文字にも驚かされますけれど、
グナーワをサンプリングしたブロークン・ビートや、アフロ・ハウス、ダブなど、
さまざまな音像が交叉するプロダクションに、幻惑されっぱなし。

リーダー作のほか、マタンボが組んだユニットもあります。
スポーク・マタンボ、DJスポコ、ギターのアンドレ・ゲルデンハイス、マルチ奏者
ベキセンゾ・セレ、ドラムスのマイケル・ブキャナンの5人によるファンタズマは、
ヒップ・ホップのマナーで、サイケデリック・ロックにシャンガーン・エレクトロと
マスカンダを取り入れたハイブリッドなサウンドを聞かせます。

グローバル・カルチャーのなかで、南ア音楽の可能性をいかに発揮していのくか。
スポーク・マタンボは、その回答を作品でいつも提示しています。

Spoek Mathambo "MSHINI WAM" BBE BBE156ACD (2010)
Spoek Mathambo "FATHER CREEPER" Sony CDCOL8320 (2012)
Spoek Mathambo "MZANSI BEAT CODE" Teka no number (2017)
Spoek Mathambo "TALES FROM THE LOST CITIES" Teka no number (2020)
Spoek Mathambo "HIKIKOMORI BLUE" Teka no number (2021)
Fantasma "FREE LOVE" Teka no number (2015)

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