スポーク・マタンボがフックアップした新人のデビュー作。
これがヒップ・ホップとも、ハウスとも、エレクトロともまったく無縁の、
なんとマスカンダの音楽家なんだから、ビックリです。
マスカンダはズールーの吟遊詩人(ミンストレル)が伝えてきたズールー・フォーク。
バキバキに尖ったエレクトロを制作するプロデューサーの視界に、
マスカンダなんて音楽が入っていること自体、オドロキなんですけれど、
まさしくそこにこそ、南ア黒人音楽を継承し前進させるマタンボの資質が表れています。
マタンボの17年作“MZANSI BEAT CODE” にも、
マスカンダをエレクトロ化したユニークなトラックがあったし、
ファンタズマでもマスカンダが大きく取り入れられていましたけれど、
それにはこのアルバムの主役、ヴカジタテの存在があったんですね。
ファンタズマに、ベキセンゾ・セレとクレジットされたマルチ奏者こそが、
このヴカジタテなのでした。
クワズールー・ナタール州、ドゥウェシュラ育ちのベキセンゾ・セレは、
幼い頃からマスカンダに親しみ、マスカンダのギタリストだった父親から
ギターを習いました。ギターをマスターすると、コンサーティーナ、ハーモニカ、
ベース、ヴァイオリンと次々と楽器を習得してマルチ奏者に育ち、
やがて自身で作曲や歌も歌う、マスカンダの音楽家となったそうです。
12年の初のソロ・アルバムは、すべての楽器をヴカジタテ一人で演奏していて、
マタンボのプロデュースによって制作されました。
イキイキとしたギターのピッキング、ドライヴするベース・ライン、
大地を踏みしめるようなキックなど、一体感のある演奏はまるで生バンドで、
たった一人の多重録音とは思えないくらいです。
ヴカジタテは、早口で語る即興のイジボンゴを交えながら、
あけっぴろげな歌いっぷりで、マスカンダを快活に歌っています。
マタンボはまた、ヴカジタテの半生を描いたドキュメンタリー・フィルムも制作しています。
そのフィルムのなかで、丘の上でギターを練習するために牧畜業を放棄したことや、
ギターを教えてくれた父親を幼くして亡くし、小学校を退学してウムラジに引越し、
楽器と洋服の入ったバッグだけを持って、音楽の道を歩んだことなどが語られています。
ダーバンに出て仕事を探すも、無学のため職にありつけず生活には苦労したことや、
母親と兄弟を殺害されるなど、苦難に満ちたヴカジタテの半生ですが、
そうした苦悩を越えて神に感謝するウガジタテの逞しさが、
その歌に宿っているのを感じます。
Vukazithathe "ANIBAKHUZENI" Teka no number (2012)