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コサ語使いのストーリーテラー ラリボーイ

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もう一人、スポーク・マタンボがフックアップしたのは、
コサ語で「田舎の少年」を意味するラリボーイなるラッパー。
ラリボーイことシフォセンコシ・ンコドワネは、
コサ人の劇作家・小説家として著名なW・K・タムサンカ(1928-1998)の曾孫で、
曾祖父が残した芸術的遺産から多くのインスプレーションを得て、
自身のアイデンティティであるコサ語のラップ表現をクリエイトしたラッパーです。

東ケープ州、バターワース生まれのラリボーイは、
4歳の時に叔父からギターをもらって音楽を始め、
少年時代は、マンドーザやアラスカ、TK・ジーに影響を受け、
クワイトのアーティストを目指していたそうです。

14歳からラップを始めたものの、パンチラインで競い合うスタイルが性に合わず、
ライヴ・バンドのミュージシャンを志向していたところ、
ジョニー・メコアのミュージック・アカデミーでトランペットを学んでいたのを見込まれ、
インパンデ・コアのトランペット奏者兼歌手に起用され、プロの道を歩み始めます。
インパンデ・コア解散後は、元メンバーのスマッシュと結成したラジオ123で、
マンデーラ大統領が示した希望を持ち続けることの重要性を音楽へ反映させようと、
マンデラ・ポップを打ち立て、人気を獲得しました。

マタンボはラジオ123時代にラリボーイと出会い、ラリボーイのコサ語のラップを聴いて、
既成概念にとらわれない、南ア独自の表現をもつユニークなスタイルに感銘し、
プロデュースを申し出たといいます。
マタンボがラリボーイのために初めてビートメイクしたのが3曲目の‘Nomzamo’ で、
ダラー・ブランド夫人のサティマ・ビー・ベンジャミンが88年に出した
“LOVE LIGHT” 収録の‘Winnie Mandela - Beloved Heroine’ をサンプルに使い、
故ウィニー・マンデーラへのオマージュを捧げています。

そして、完成したフル・アルバムには、曾祖父の名前がタイトルに付けられました。
オープニングの‘Emonti’ では、ワークソングのコール・アンド・レスポンスのような
チャントをバックに、田舎の農村地帯を想起させる音像と、
都会的なクワイトのサウンドが並列されます。
このアルバムは、農村と都会、伝統とモダン、過去と現在など、
対照的な二者を関連付けながら、対話させようと試みているみたいですね。

ラリボーイは、コサ語とズールー語でラップしていて、
子音のクリック音がパーカッシヴな効果を強調する滑舌によって、
他の言語にはマネのできないフロウを生み出しています。
コサ社会には、西アフリカのグリオに匹敵する、
プレイズ・ポエットの語り部インボンギがおり、ラリボーイのラップは、
インボンギのプレイズ・ポエトリーを暗喩しているようにも思えます。

‘Blues for Bra Kippie’ は、キップー・モケーツィの75年の曲‘African Day’ から
サンプルを取っていて、南ア・ジャズへの強い親密度を感じるほか、
ファンキーなリズム・ギターやグナーワなど、
さまざまなサンプルがカットアップされています。
スクラッチ音が懐かしいオールド・スクールなヒップ・ホップ・サウンドも、
かえって新鮮に響きますね。

インパンデ・コアやラジオ123で得たスキルを持って、
新たに自分の民族の物語を語るリリシストとして再出発したリリボーイの本作は、
ユニークなコサ語ラッパーというより、アフリカの伝統的なストーリーテラーの
ニュー・スターという文脈で捉えるべき才能でしょう。

LaliBoi "SIYANGAPHI" Teka no number (2019)

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