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返シドメ 一噌幸弘

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返シドメ.jpg   一噌幸弘  東京ダルマガエル.jpg

一噌流笛方という能楽師の世界にとどまらず、
ジャズ、ロック、クラシックの音楽家たちと果敢に交流して、
今年でCDデビュー30周年を迎えた一噌幸弘。

思い起こせば、91年のデビュー作『東京ダルマガエル』は、衝撃でした。
山下洋輔、坂田明、渡辺香津美というゲストを向こうに回して、
丁々発止のインプロヴィゼーションを繰り広げる
即興演奏家としての実力は、ただならぬものがありました。

能管や篠笛に、これほどの表現力があるのかと、目を見開かされたアルバムで、
ぼくはこの1枚で一噌さんのファンになりました。
このアルバムは、その後ジャケットを変えて再発もされましたね。
一噌さんのプレイは、その後ライヴで何度も生体験してきましたけれど、
一番忘れられない記憶が、一噌さん本来の土俵である能舞台で聴いた演奏です。

妻が能の稽古を始めて、もう十年以上になるので、
妻の先生の能舞台を観る機会がちょくちょくあるんですけれど、
ある時、いつもと違う笛方の演奏に、聴き惚れたことがありました。
音色がもうバツグンに良くって、笛の豊かな響きを鼓舞するような
スピード感たっぷりの吹きっぷりに、圧倒されてしまったんでした。

いや~、今日の1部の笛の人、べらぼうに上手かったなあと思いながら、
終演後に番組(プログラム)をめくってみたら、「一噌幸弘」とあるじゃないですか!
えぇ~、あれ、一噌さんだったの!? うわぁ、どおりでねぇ、と、ようやくナットク。
吹き手によってあれほどの差があるものかと、その時あらためて実感したものです。

その一噌さんの新ユニット、返シドメのデビュー作が届きました。
吉田達也のドラムスとナスノミツルのベースのトリオ編成だったのが、
大友良英のギターが加わり4人編成となった返シドメ。満を持してのレコーディングですね。
プログレッシヴ・ロック的な変拍子を多用した楽曲がほとんどとはいえ、
抒情的なメロディが多く、存外に聴きやすいものとなっています。
能管メタルという触れ込みも、まさにですね。

大友のギターがもっとノイズを撒き散らしているかと思いきや、
バンド・アンサンブルのバランスを意識しながら、
慎重にサウンドへ色付けしているのが印象的です。
一噌さんは能管、篠笛のほか、
ヨーロッパ由来のリコーダーや角笛も吹いていますね。

リコーダーや角笛は音にブレがなく、ノイズ成分も少なくて、
表情豊かな邦楽器に比べれば、その音色はずいぶんと淡白です。
ところが一噌は、能管や篠笛の技巧を借りて、音を揺らしたり、切断したりと、
あらん限りのプレイを繰り広げていて、
リコーダーをこんな風に鳴らせるのかと、感嘆せずにはいられません。

吉田・ナスノ・大友が生み出すヘヴィな音圧にのせて、
さまざまな技巧を駆使し、笛の限界を突破せんとする一噌の演奏は、
まさに鬼気迫るものがあります。
それでいて聴後感のクールさが独特で、これこそが一噌の音楽世界でしょう。

返シドメ 「返シドメ」 Arcàngelo ARC1174 (2021)
一噌幸弘 「東京ダルマガエル」 ライジン KICP101  (1991)

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