ノルデスチのフォークロアを、ブラジル全土相手に歌うポップ・シンガーって、
エルバ・ラマーリョ以来じゃないの !?
マンギ・ビートの流行以降、ノルデスチの音楽は、
オルタナ方面に向かう尖ったタイプと、
マラカトゥやココなどの伝統音楽をディープに探求していくタイプに二分され、
エルバ・ラマーリョやアメリーニャのような保守王道ともいうべき、
ポップ路線のフォロー歌手の姿が、すっかり見当たらなくなってしまいましたからねえ。
そんなわけで、サンドラ・ベレの新作がすごくひさしぶりというか、
新鮮に聞こえたわけなんですが、サンドラ・ペレって、誰?と思いますよね。
ぼくも今回初めて知った人なんですが、80年、パライーバ州ザベレ市の生まれで、
ステージ・ネームは、出身地のザベレから取ったのだとか。
歌手のほか女優としての活動や、
地元パライーバのテレビ局でホスト役も務めている人だそう。
本作が5作目で、5作すべてインディ制作なのだから、知名度はおして知るべし。
エルバ・ラマーリョのようにメジャーが出していた時代とは違って、
地方音楽が全国区に進出するのはキビしい時代なんだなあ。
4年間かけてじっくり制作したというアルバムで、
全13曲すべてパライーバの作曲家の作品を並べています。
マリネースやシヴーカが歌った‘Onça Caetana’ をのぞき、未発表曲ばかり。
バイオーン、ショッチ、ココ、マラカトゥなどのノルデスチのリズムにのせて、
サンフォーナ(アコーディオン)を中心に、ザブンバやアルファイアが活躍するサウンドは、
伝統的なフォローとなんら変わるところはないといえ、
これほど新鮮に響くのは、なにゆえでしょうね。
‘Terabeat’ では、ココのリズムにのせて歌う老女をイントロにフィーチャーしたり、
ピファノ(笛)を効果的に使うなど、楽器の音色の響きや、
サウンドの整理の仕方が洗練されていて、サウンドのコーディネーションが巧みです。
フリーキーなピアノとロック・ギターが緊張感を高める、バイオーン・ロックもありますよ。
カヴァキーニョ、バンドリン、カイピーラ・ギター、ウッド・ベースなどの
アクースティックの弦に加え、多彩なエレクトリック・ギターのサウンドも、
曲ごとに効果的な使い分けをしていて、サウンド・プロデュースがよくできています。
そして、なんといっても、主役のサンドラの晴れ晴れとした声がいいじゃないですか。
その歌声には華があります。トライアングルの跳ねたリズムも小気味よく、
極上のノルデスチ歌謡を堪能しました。
Sandra Belê "CANTOS DE CÁ" NG2CD NGCD002124 (2020)