4トロンボーンというレアな編成で、主役はバス・トロンボーン。
しかも、このジャケ写ですよ。
これで買わないわけにはいかないでしょうという、
ニュー・ヨークの女性バス・トロンボニスト、ジェニファー・ウォートンのデビュー作。
アンサンブル重視のオーソドックスなジャズで、すがすがしい作品だったんですが、
新作ジャケが、これまたジャズとは思えぬポップなデザインで、
試聴もせずに飛びついちゃいました。
イマドキのジャズがいかに絶好調かを示す、洒脱なデザインですね。
ジャズ・シーンでチューバが脚光を浴びるようになったことと、
連動するのかどうかはわかりませんが、
アンサンブルのなかでサポート役に回ることが宿命的な低音楽器を、
メインに押し出そうという試みは、興味をそそられますよね。
もっとも4トロンボーンという編成じたいは、特に目新しいものではなく、
日本でも、鍵和田道男や中川英二郎たちが試みています。
ただ、トロンボーンの特性を発揮した面白いアンサンブルができるかどうかは、
なかなか難しいところなんですが、ジェニファー・ウォートンのアンサンブルは、
ラージ・アンサンブルの技術ばかりでなく、クラシックのテクニックも駆使して、
ユニークなアレンジをしています。4台のトロンボーンがハーモニーを生み出したり、
別々の旋律で動いたりして、さまざまに色彩を変えていくんですね。
もともとジェニファーはクラシックの演奏家で、
ニュー・ヨークのブロードウェイで、オーケストラ・ピットの仕事もするかたわら、
ジャズもプレイしているという人なので、より自由度の高い演奏を求めて、
4トロンボーンの可能性を試しているようです。
デビュー作の1曲目からそれは発揮されていて、
4拍子と7拍子がスイッチする構成の曲で、
メンバー全員が活躍するアレンジでのびのびと演奏しているのが、印象的です。
ファンキーなチューンあり、美しいバラードありと、楽曲のタイプもヴァラエティ豊かで、
‘Softly As In A Morning Sunrise’ やオスカー・ピーターソンの‘Tricotism’ では、
非凡なアレンジが楽しめます。
そして、アルバム・ラストでは、なんとダイナ・ワシントンの‘Big Long Slidin' Thing’ を
ジェニファーが歌うというサービス精神に富んだ趣向で楽しめます。
ブルースというより、キャバレー・ソングぽくて、
遊びゴコロを発揮したトロンボーン・ソリが痛快です。
新作はスタンダード曲はなく、ジェニファーとゆかりのあるミュージシャンたちに
作曲を依頼し、提供された曲を演奏しています。
オープニングは、ニュー・ヨークのジャズ・ピアニスト、
マイケル・エクロスに作曲を委嘱したラテン・ナンバー。
マイケル・エクロスは、話題となったキューバン・ビッグ・バンド、
オルケスタ・アコカンのアレンジャーとして名を上げましたよね。
今作も、4トロンボーンが生み出すサウンドスケープは、鮮やか。
4人が順にソロを取る‘Ice Fall’ のようなオーソドックスなアレンジのトラックから、
リズムがさまざまにスイッチする複雑なアレンジの‘Blue Salt’ まで、
トラックごとに趣向を変えつつ、
いずれでも遊びゴコロあるところが、このグループの良さですね。
カート・エリングをゲストに迎えたラスト・トラックでは、
トロンボーン・ソロを真似たスキャットを披露していて、いやぁ、もう、たまんない。
このアルバムには、豊かな物語があります。
Jennifer Wharton’s Bonegasm "BONEGASM" Sunnyside SSC1530 (2019)
Jennifer Wharton’s Bonegasm "NOT A NOVELTY" Sunnyside SSC1612 (2021)