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センバのコミュニケーター パウロ・フローレス

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Paulo Flores  INDEPENDÊNCIA.jpg

パウロ・フローレスのイキオイが止まらない。
創作意欲が湧き上がって、ほとばしるのを止められないといった感じで、
なにが彼をそんなに突き動かしているのか。
若手ラッパーのプロジージョと組んで、
エスペランサというプロジェクトを立ち上げたかと思えば、はや新作が届きましたよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-02-01

アンゴラ人最大のアイコンとなったパウロ・フローレスですけれど、
ルアンダ、カゼンガ出身のポルトガル人で、リスボン育ちのアンゴラ人という立ち位置が、
世代、文化、表現をつなぐコミュニケーターという役割を、
彼に自覚的にさせたのでしょうか。
今作でもディアスポラである自伝的ドキュメントをまじえながら、
アンゴラの過去と現在、そして未来につながるテーマを取り上げ、
庶民の生活に根差しながら、抑圧と貧困と闘う人々の人生を語り、
逞しきアンゴラ人の誇りを歌っています。

新作のタイトルは、ずばり『独立』。
マルクス・レーニン主義時代のプロパガンダ・ポスターにならったアートワ-クには、
目隠しされた女性が描かれ、皮肉にも in と dependência を分裂させています。
アンゴラ独立時にテタ・ランドは、同じ『独立』のタイトルでアルバムを出しましたが、
約半世紀を経て、独立への眼差しがすっかり様変わりしたことを暗喩していますね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-11-16

独立50周年にはまだ4年早い、中途ハンパなタイミングでこのタイトルを付けたのは、
現在の社会状況では、とても祝賀を美化することなどできないという思いからのようです。
アニヴァーサリーを祝う前に、パウロはアンゴラの人々が忘れてしまっている
脱植民地化への長い闘いと、独立後の内戦の苦しみを呼び覚まそうとしています。

オープニングの‘Heróis Da Foto’ は、キゾンバのリズムに甘やかなメロディがのる、
明るいトーンを持った曲。しかし、その底には涙の味が隠れていて、
踊りながら泣き濡れてしまいそうなトラックじゃないですか。
続いて、ブラジルのショーロ・ミュージシャン、ジオゴ・グアナバラがアレンジを務めた
‘Bem-Vindo’は、ブラジルのショーロとアンゴラのラメントをミックスしたような切ない曲。
ジオゴが弾くバンドリンとギターもフィーチャーされ、アルバム冒頭から、
歌に沈殿している悲しみの深さに、胸を射抜かれました。
これって、ブラジルのサウダージ感覚とも異なる、アンゴラ音楽独特の味わいです。

ギネア=ビサウの夭逝した伝説のシンガー・ソングライター、
ジョゼ・カルロス・シュワルツの曲と
アンゴラのシンガー・ソングライター、ボンガの曲をメドレーにして、
パウロの長年の相棒であるギネア=ビサウのギタリスト、
マネーカス・コスタと共に歌ったトラックがあるほか、
プロジージョとユリ・ダ・クーニャをゲストに迎えた曲、
さらに伝説的なヴェテラン・ミュージシャンを迎えた曲も用意されています。

Boto Trindade  MEMÓRIAS.jpg

アルバム終盤の‘Esse País’ と’Roda Despedida de Semba’ に参加した、
ギタリストのボト・トリンダーデと、
コンガ奏者のジョアンジーニョ・モルガドの二人が、それです。
ジョアンジーニョ・モルガドは、コンジュント・メレンゲ、センバ・トロピカル、
オス・ボンゴス、バンダ・マラビーリャなどの数多くのバンドで、
ドラマーやパーカッショニストとして活躍し、
ダヴィッド・ゼー、カルロス・ラマルチーネ、テタ・ランドなどの独立以前の歌手たちから、
独立後ではカルロス・ブリティ、フィリープ・ムケンガ、
最近ではユリ・ダ・クーニャに至るまで、数多くのヒット曲に関わってきた名手で、
モダン・センバのビートをクリエイトしたと尊敬される人です。

アンゴラの歴史に触れた歌詞を縦軸に置き、
ギネア=ビサウのグンベー、ブラジルのショーロなど、ルゾフォニアの音楽性を横軸に置いた
パウロ・フローレスの作風が、今作もいかんなく発揮されています。
キゾンバやズークを消化して、クドゥロ世代の音楽家とともにヒップ・ホップのセンスも
取り入れてきたパウロのセンバは、ダンスフロア向けの音楽やポップスからは求められない、
長編小説を読むような充足感が得られます。

Paulo Flores "INDEPENDÊNCIA" Sony 19439882772 (2021)
Boto Trindade "MEMÓRIAS" Rádio Nacional De Angola RNAPQ22

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