ミュージック・マガジンの「ニュー・スタンダード2020s」で、
ポルトガル語圏アフリカ(PALOP)音楽を特集するにあたって、
編集の新田晋平さんからディスク・ガイドの選盤に、
「ポルトガルのレーベル、プリンシペは入りますか」との問いかけがあり。
う~ん、こういうアドヴァイスは、本当にありがたい限り。
ぼくが電子音楽界隈には疎いことを見越して、さりげなく教えてくれているわけで、
新田さんお見通しの通り、そのレーベル、ぜんぜん、存じあげませ~ん!
ということで、プリンシペ、あわててチェックしましたよ。
いやあ、オドロきました。
時代はクドゥロから、とんでもなく飛躍していたんですね。
記事のディスク・ガイドには、
レーベルを代表するDJマルフォックスをとりあえず選びましたが、
プリンシペに集う多くのアーティストをコンパイルしたCDが出ていたので、
さっそくオーダーしましたよ。
ちなみに、プリンシペのカタログはデジタル・リリースが中心で、
CDはたった2作しか出ていないだけに貴重です。
このCDは、プリンシペというレーベルを理解するのに、うってつけですね。
全23曲、すべてのトラックに共通しているのが、ポリリズムの応酬です。
どれもこれも徹底的に、パーカッシヴ。このビートメイキングには圧倒させられました。
シンゲリやゴムなどぶっ飛んだアフリカン・エレクトロニック・ミュージックは数々あれど、
このビート・センスには、夢中にさせられます。
ここに集う若い才能たちは、ハウスやテクノ、あるいはグライムやダブステップなどの
欧米のベース・ミュージックの影響を受けずに、
これをクリエイトしているんじゃないのかな。
それほど非凡で、個性的なトラックばかりが並んでいるんですよ。
琴をサンプリングした‘Dor Do Koto’ とか、独創的すぎるでしょ!
イカれたリズムに唐突なカット&ペーストが挿入される‘Dorme Bem’ も降参。
ダブ創生期を思わす狂いっぷりが、もうサイコー。
ここで生み出されているのは、クドゥロの発展形ではなく、
クドゥロを生み出したバティーダをベースにした電子音楽で、
まさにビートの実験場となっています。
DJマルフォックスは、クドゥロにサンバのバツカーダをミックスしたと語っているし、
アンゴラのタラシンハや、カーボ・ヴェルデのフナナーをミックスしているDJもいます。
まだこの音楽に名前が付いていないところも、将来性を感じますね。
ラベリングされると、外部からピックアップされて消費されるのも早いからなあ。
ちなみにDJマルフォックスことマルロン・シルヴァは、
両親がサントメ・プリンシペ出身の移民二世で、子供の頃からキゾンバやクドゥロで育ち、
父親からサンバやMPB、ジャズを教えてもらったそうです。
3年前に来日してライヴも敢行していたという(!)DJニガ・フォックスは、
内戦のアンゴラからリズボンに逃れてきた難民で、
当時4歳の彼とその家族が落ち着いたのが、リズボン外縁の低所得層アパートでした。
プリンシペから発信されるリスボン郊外に疎外されたPALOPコミュニティ発の電子音楽が
カウンターであることは、バンドキャンプの本作のページに、
革命家アミルカル・カブラルの73年のインタビューの発言を
引用していることからも明らかでしょう。
ペドロ・コスタ監督の00年の映画『ヴァンダの部屋』の光景が立ち上がってくる、
そんな衝撃の一枚です。
v.a. "MAMBOS LEVIS D’OUTRO MUNDO" Príncipe P015 (2016)