トーシン・アリビサラのキャリアをチェックしていて、
イクウンガの15年作に、コンガとパーカッションで参加していることに気付きました。
そういえばイクウンガって、話題にしたことがありませんでしたね。
せっかくなので、イクウンガについて、ちょっと書いておこうかな。
イクウンガことイクウンガ・ウォノディは、
ナイジェリア南東部リヴァーズ州の州都ポート・ハーコート出身の詩人。
アフロビート・ポエトリー(略称 Abp)という分野を切り開いたクリエイターです。
90年代初め、レゴスのシュラインで
フェミ・クティのオープニング・アクトとして出演していたイクウンガは、
バリトンのよく響く声で、ピジン・イングリッシュの自作詩を朗読します。
そのディープ・ヴォイスは、リントン・クウェシ・ジョンソンに通ずる魅力がありますね。
04年に出したデビュー作は、フェラ・クティのエジプト80で音楽監督を務め、
のちにフェミ・クティのポジティヴ・フォースの音楽監督を務めたデレ・ソシミが制作、
デレ・ソシミらしいクールなアフロビート・サウンドで仕上げています。
曲は、デレ・ソシミとベーシストのフェミ・エリアスによる共作となっています。
ウガンダの少年兵を題材とした‘Di Bombs’ がヒットし、
スーダン救済プロジェクト・アルバムの“ASAP” に収録されたほか、
IBFジュニア・ミドル級チャンピオン、カシム・オウマのドキュメンタリー映画
“KASSIM THE DREAM(チャンピョンになった少年兵)” の
サウンドトラックにも採用され、イクウンガのシグニチャー・ソングとなりました。
07年には、カナダのアフロビート・バンド、
ミスター・サムシング・サムシングとコラボしています。
イクウンガの故郷であるニジェール・デルタの原油流出汚染などの社会問題のほか、
アフリカにおける精神障害の差別や偏見の問題に取り組んでいるイクウンガの、
精神科医としての問題意識をテーマとした詩などを朗読しています。
イクウンガには、音楽家の顔のほかに、精神科医の顔もあるんですね。
アメリカ合衆国のライセンスを得た精神科医としてボルチモアで従事しており、
ボルチモアの精神医学会の主要メンバーのひとりにもなっています。
そして、トーシン・アリビサラが参加した15年の3作目は、
イクウンガの最高作となりました。
バリトン・サックスを加えたホーン・セクションに、
重低音を利かせたリズム・セクションなど、
1作目からは見違えるほどボトムに厚みが増しています。
イクウンガのポエトリー・パフォーマンスも、ツバが飛んでくるようなアグレシヴさをみせ、
グンと表現力が増しましたね。
サウンド・プロダクションも凝っていて、オープニングの‘Kola Nut’ では、
トーキング・ドラムにアップライト・ベース、さらにはコラまでフィーチャーして、
アフロビート定型のサウンドから距離を置いたデザインをしているところが新鮮です。
本作も、詩はイクウンガ、曲はデレ・ソシミとフェミ・エリアスの共作がベースですが、
キーボードのジョン・マクリーン作のレゲエでは、
イクウンガがリントン・クウェシ・ジョンソンばりのダブ・ポエットを聞かせます。
さらにそのリントン・クウェシ・ジョンソンの‘Sonny's Lettah’ に、
イクウンガのポエットをアダプトした‘Sonny Lettah’ までやっているのにはビックリ。
しかも、曲はフェラ・クティの‘Dog Eat Dog’ をまるまる借用していて、
アフロビート・ダブ・ポエットとなっています。
このほかにも、ソロ・ギターをバックに朗読するトラックがあるなど、
趣向に富んだアルバムとなっていて、アフロビート・ポエトリーの大力作です。
Ikwunga "DIBIA" Rebisi Hut & Dele Sosimi Music no number (2015)
Ikwunga "CALABASH VOL.1 : AFROBEAT-POEMS BY IKWUNGA" Rebisi Hut no number (2004)
Mr Something Something & Ikwunga The Afrobeat Poet "DEEP SLEEP" World WR004CD (2007)