新生レトロタンの2番は、ギタリストのフランシス・ラファエル・ムワキチメ。
旧レトロタン時代の95年にリリースされていたカセット作品の再発です。
フランシス・ムワキチメは、イギリス領タンガニーカ時代の1920年代に、
内陸の中南部にあるイリンガ地区のトサマガンガに生まれました。
地元のカトリック小学校に通い、神父の指導でブラスバンドに加わり、
トランペットの演奏を始めます。
続いてアコーディオン、ギター、マンドリン、ウクレレにも挑戦し、習得します。
やがて40年代に普及した蓄音機やラジオ放送によって、
ジミー・ロジャーズやジーン・オートリーなどの北米のカントリー・ミュージックを知り、
東アフリカのトルバドールたち、フンディ・コンデやロスタ・アベロなど、
多くのギタリストに影響を受けます。
50年代後半にはタンガニーカ放送局で音楽活動をはじめ、人気を不動のものとしました。
ムワキチメの歌は、かつてドイツ軍と苛烈な闘いを繰り広げた
ヘヘ人の抵抗運動を取り上げた曲が多く、
ムワキチメが生まれる以前の歴史的な事件を、民族の歴史として伝承する
語り部の役割を担っています。
ヘヘの伝統歌や子守唄のほか、ヘヘの言い伝えや警句をまとめたものなど、
レパートリーはいずれも、ムワキチメの出自の
ヘヘの伝統に沿ったもので占められていますね。
いずれの曲もフィンガー・ピッキング・スタイルのギターで、
穏やかに歌うムワキチメに、奥さんのクリスティーナが
コーラスで華を添える曲もあります。
クリスティーナがリードをとる‘Sambulihate’ では、
キベナ語の方言で歌っています。
東アフリカのギター・ミュージックのドライ・ギターの流れを汲むもので、
スムースなフィンガリングのギターにリズム面の面白さはないものの、
ゆるいフォーク・サウンドは、ここちよく耳に響きます。
本作には95年のカセット音源のほか、ボーナス・トラックが付いていて、
70年代にジョン・ローが録音して、アメリカのオリジナル・ミュージックから出した
“AFRICAN ACOUSTIC : GUITAR SONGS FROM TANZANIA, ZAMBIA & ZAIRE”
収録のムワキチメの4曲がまるまる収録されています。
四半世紀前の70年代録音も基本的にギター・スタイルに変化はないものの、
70年代録音の方が、メロディをきわだたせるようなピッキングをしていて、
年を経てピッキングが流麗になって、メロディを流し弾くようになった印象があります。
そこが、カタンガ・スタイルに発祥したドライ・ギターが、
エキストラになったゆえんでしょうか。
Francis Raphael Mwakitime "EXTRA DRY" RetroTan RT002 (1995)
Losta Abelo, George Kazoka, Magwere Blind School Band, Joseph Mkwawa, Francis Mwakitime and others
"AFRICAN ACOUSTIC: GUITAR SONGS FROM TANZANIA, ZAMBIA & ZAIRE" Original Music OMCD023