あぁ、思わず、タメ息がもれました。
重厚な映画作品を観終えたあとのような充足感に満たされるアルバムです。
映像が立ち上ってくる器楽奏や、俳優を起用した朗読など、
じっさい映画のサウンドトラックを思わせるプロダクションが、随所で披露されます。
第一次世界大戦から希土戦争の終結までに、
数十万の小アジアのギリシャ人が組織的に虐殺され、
強制追放の末に命を落としました。歴史的な大惨事となったスミルナの大火から、
まもなく100年を迎えるのを受けて企画された本作は、
深い悲哀のこもったメロディが、もうただごとではない切実さで迫ってきて、
アナトリアの人々の心に深く刻まれた、哀しみの歴史を表出させています。
ギリシャ現代詩の気鋭の詩人11人が歌詞を書き下ろし、
アンドレアス・カツィヤニスが、かつてアナトリアで歌われたギリシャの古謡や、
アナトリアの流民の歌を下敷きに作曲し、
アンドレアス・カツィヤニスが結成し音楽監督を務める、
エストゥディアンティーナ・ネアス・イオニアスが演奏するいう、
ギリシャ音楽ファンにとってこれ以上ない布陣による、気合の入った力作です。
エストゥディアンティーナ・ネアス・イオニアスといえば、
12年にヤニス・コツィーラスとコラボしたアルバムが忘れられませんけれど、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2014-06-26
本作もまた、長く愛聴することになりそうだなあ。
こうした硬派な企画に、うってつけといえるゲストが勢ぞろい。
ヨルゴス・ダラーラスを筆頭に、アルキスティス・プロトサルティ、
エレーニ・ツァリゴプール、レオニーダス・バラファス、アスパシア・ストラティグゥ、
ナターサ・テオリドゥ、バビス・ストカス、マリオス・フランゴリスが参加しています。
CDブックはギリシャ語のみなので、まったく読めずにいますけれど、
古い写真の数々は聴き手の想像力をかきたて、音楽の感動を倍加させます。
深く憂いのある旋律に、胸を押しつぶされそうな感情を掻き立てられることに、
知識や教養といったものを軽く飛び越えてしまう、
音楽が持つ底力を再認識させられます。
[CD Book] Estoudiantina Neas Ionias & Andreas Katsigiannis "GI TIS IONIAS" Ogdoo Music Group no number (2020)