ナイジェリアの新興ジャンル、オルテがCDで聴けるとは珍しいじゃないですか。
オルテのプラットフォームは、サウンドクラウドやYouTubeがメインなので、
フィジカルがほぼ存在しないジャンル。
日本盤が出たレディ・ドンリは、ゆいいつの例外でした。
オルテは、アフロビーツとほぼ同じ音楽性、というより、
アフロビーツを相当聴き込んでいる人でないと、その差異を感じ取るのは難しく、
ぼくもオルテとアフロビーツの違いは、さっぱりわかりません。
オルテは音楽ジャンルとしてより、
オルタナティヴな文化運動として登場したムーヴメントと認識したほうがよく、
MTVやインターネット第一世代ともいえる、
ナイジェリアの富裕層の子女が生み出したところが、キモなんじゃないですかね。
アフロビーツのミュージック・ヴィデオを観ていると、
ハリウッドをホウフツさせる豪奢なセットやファッションに目を見張らされ、
これがあの巨大なスラム街を抱えるナイジェリアで、
本当に作られているのかと、驚かされます。
ナイジェリアの富める若者たちというヴィジュアル・イメージに戸惑いながらも、
ナイジェリア経済の急成長によって、
欧米の音楽文化を内面化した新世代の登場がそこには投影されていて、
それが、アルテだといっていいんでしょうね。
今回聴いたトミ・トーマスは、そんなアルテのシーンから出てきたアーティスト。
92年レゴスに生まれ、カノで育ち、アトランタと行き来するトミは、
L.O.S.というティーンエイジャーのR&Bグループに、
3人のラッパーとともにシンガーとして加わって10年に成功を収め、
13年からソロ活動をスタートさせています。
90年代生まれという点と、幼年・青年期に各地を転々とした育ちが、
アルテのアーティストのレーゾンデートルでしょうか。
15年に初EPを出し、16年に初アルバムを出していますが、
フィジカルで出したのは今回が初。ユニヴァーサルという大メジャーが配給しています。
R&B、ヒップ・ホップ、レゲエ、ハウス、エレクトロなど、
さまざまな音楽要素をクロスオーヴァーしていて、
アフロビーツのなかでも、とびっきり洗練されてるのがアルテだと、受け取れますね。
19分にも満たないEPですけど、ブジュ・バントンとの共演曲を含む6曲は、
どれも理屈抜きカッコいいトラック揃い。メロウなサウンドの質感にヤラれます。
Tomi Thomas "HOPELESS ROMANIC" Tomi Thomas Music 00810061165699 (2021)