ジャズ・クラリネット奏者のトニー・スコットが、
インドネシアのジャズ・メンと録音した65年のMPS盤。
これがインドネシアでCD化されるとは思いもよりませんでした。
インドネシアでジャズが盛り上がっている証拠ですね。
よく知られたレコードとはいえ、いままで聴いたことがなかったんですけれど、
いや~、素晴らしい内容ですね、これ。
60年代はジャズと民俗音楽を融合させる試みが盛んに行われましたが、
ワールド・ジャズの流れが活発になった21世紀の現在でこそ、
再評価にふさわしい作品といえるかもしれません。
トニー・スコットはバディ・デフランコとともに、
バップ・イディオムに長けた数少ないクラリネット奏者でした。
しかしモダン・ジャズの時代には、スウィング時代とは一転、クラリネットが冷遇されたため、
実力に見合った人気を得られなかった人でした。
60年代に入ると、トニーはアメリカに見切りをつけ、東南アジアを旅して、
日本ではジャズ・ミュージシャンとばかりでなく、和楽器演奏家とも共演しました。
この作品であらためて驚かされるのは、
当時のインドネシア人ジャズ・ミュージシャンの実力の高さですね。
ピアノ、ギター、テナー・サックス、ベース、ドラムスの5人とも、
本場アメリカのミュージシャンたちにひけをとらないプレイを繰り広げています。
ジャカルタ生まれのドラマー、ベニー・ムスタファは、
ニュー・ヨークにもたびたび出かけて、武者修行をしていたんですと。
ペロッグ音階によるバリ民謡の1曲目は、まさしくバリニーズ・ジャズそのもの。
イントロとエンディングでガムランのリズムを使い、本編はフォー・ビートで演奏しています。
一転、2曲目のアッティラ・ゾラーの「猫と鼠」は、まったくのモダン・ジャズ・スタイル。
3曲目は本格的なスンダ音楽で、ピアニストのブビ・チェンがカチャッピを弾き、
テナー・サックス奏者のマルジョノがスリンを吹いて、カチャッピ・スリンをジャズ化しています。
そしてラストの、スレンドロ音階にアレンジしたテーマで始まる「サマータイム」の
スリリングな演奏も絶品といえます。
ガムランとジャズといえば、
ドン・チェリーの“ETERNAL RHYTHM” という大傑作がありましたが(思えばあれもMPSですね)、
スンダ音楽とジャズとが綱引きし合うような楽しさに溢れた本作も、名作じゃないですか。
音がめちゃめちゃいいのもカンドーもの、さすがMPSです。
Tony Scott and The Indonesian All Stars "DJANGER BALI" Demajors no number (1967)