シンピウェ・ダナのデビュー作ほど、
南ア音楽の新世代登場をはっきりと意識させたアルバムはありませんでした。
80年生まれ、牧師の父のもとで幼少期に教会音楽で育ち、
南ア合唱の伝統をしっかりと受け継ぎながら、
現代女性のパーソナルな表現をあわせ持った
シンガー・ソングライターの登場は、それは新鮮でした。
マリからロキア・トラオレが出てきた時のような、時代の変わり目を感じたものです。
ソウル、ゴスペル、ジャズ、レゲエ、クワイト、エレクトロなど
幅広い音楽性を咀嚼したサウンドに、シンピウェ自身の多重録音による
無伴奏合唱で締めくくった04年のデビュー作は瞬く間に評判を呼び、
05年の南アフリカ音楽賞の最優秀新人賞をはじめ、数多くの音楽賞を総ナメしました。
それ以来、シンピウェを聴くチャンスを逸していたんですけれど、
20年に出た5作目にあたる“BAMAKO” を手に入れました。
『バマコ』というタイトルに、え?と不思議に思ったんですが、
なんとサリフ・ケイタとコラボして、マリでレコーディングされた作品で、
シンピウェがヴォーカルを多重録音した合唱曲の2曲をのぞき、
サリフとシンピウェが共同プロデュースをしています。
バックのミュージシャンも、すべてマリのミュージシャンが務めているんですね。
サリフも1曲で、すっかり角の取れたヴォーカルを聞かせています。
ギター、コラ、ンゴニ、カマレ・ンゴニ、カラバシによる伴奏は、
マンデ音楽の作法にのっとっているんですが、
シンピウェ作の楽曲はどれも南アそのもののメロディで、
マリと南アのどちらにも寄らない拮抗したサウンドは、相当にユニーク。
実験的とか野心的といったニュアンスはなく、両者がしっくりと溶け合っていて、
得難い味わいもあります。
コサ語でなく英語で歌うところには、レゲエも少し交じっていますね。
こんな<サウス・ミーツ・ウエスト>のアフリカ音楽は、初めて聴いた気がします。
Simphiwe Dana "ZANDISILE" Gallo CDGURB063 (2004)
Simphiwe Dana "BAMAKO" Universal 060250874053 (2020)