汎カリブを見渡すクレオール・シンガー ロニー・テオフィル
今年のアルバム・ベスト10に入るフレンチ・カリブのアルバムは、 またしてもヴェテランのマラヴォワになってしまうのかと思っていたら、 出ましたねえ、ロニー・テオフィルの新作が。 これまでのロニーのアルバムのなかでも、ダントツの最高傑作ですよ。 オープニングの‘Loin De Mon Pays’ のエレガントなメロディといったら、どうです。...
View Article知られざる温故知新ルンバ・アルバム バルー・カンタ
中古CDのお店をチェックしていて、最近いやに目につくようになったのが、 明らかに遺品整理で出てきたと思われる大量入荷品。 プリミティヴ・アートの分野では、コレクターの死去に伴う遺品整理で、 自分が若い時に買えずに指をくわえていた逸品が、 また舞い戻ってくるなんて現象が、10年くらい前にあったんですけれど、 ついにCDでも、これに似た事態が起き始めてるんですね。...
View Articleトーゴのクール・カッチェ ジェイ=リバ
トーゴの国旗をバックにした若者が二人。 一目でトーゴのヒップ・ホップとわかるジャケットなれど、初めて目にするCD。 ジャケットを裏返すと、12年に出ていたルサフリカ盤と判明。 十年近くも前のCDなのかあ、ぜんぜん見たことないなあと、独り言ちしながら、 ワン・コインもしないアウトレット品を、救出してまいりました。 で、これが思いのほか、面白かったんですよ。...
View Articleエレクトロが奏でるルゾフォニアのメランコリー ディノ・ディサンティアゴ
ディノ・ディサンティアゴの新作タイトルが「バディウ」だと知ったときは、 これはディープなアルバムになるな、という予感がありました。 バディウとは、いまではカーボ・ヴェルデのサンティアゴ島民の呼称にもなっていますが、 もとは、ポルトガル語の vadio (遍歴する、放浪する)に由来する、 ポルトガル人入植者がアフリカから連行された奴隷を指して呼んだ蔑称でした。...
View Article移民のやるせないさみしさに ニティン・ソーニー
20年ぶりに聴いた、ニティン・ソーニーの新作。 デビュー当初からまったく変わることのない音楽性と、 一貫した世界観に感じ入りました。 インド移民二世として生まれたニティン・ソーニーは、 大学生時代にアシッド・ジャズのジェイムズ・テイラー・カルテットに加わり、 のちにUKエイジアンのタブラ奏者タルヴィン・シンとグループを組み、 93年にソロ・デビューしたマルチ奏者のシンガー・ソングライター。...
View Article年の瀬はジャイヴで スキャットマン・クローザーズ
いい年の瀬です。 仕事・家庭・プライヴェート三拍子揃って、 一点の翳りもない年なんて、人生、なかなかありませんよ。 こういう年だって、時にはなくっちゃねえ。 多事多難な年ばっかりじゃあ、身がもちません。 そんな幸せ気分で満ち足りている年末に、嬉しい1枚が届きました。 ぼくのごひいきのジャイヴ・シンガー、スキャットマン・クローザーズの編集盤です。 2年前、ジャスミンから、56年トップス盤全12曲に、...
View Articleマイ・ベスト・アルバム 2021
Dino D’Santiago "KRIOLA" Sony Music 19439816922 (2020) Paulo Flores "INDEPENDÊNCIA" Sony 19439882772 (2021) Rahel Getu "ETEMETE" Awtar no number (2021) Takfarinas "ULーIW TSAYRI"...
View Articleジャズを越えて ポール・デスモンド
あけましておめでとうございます。 今年の正月は、もうな~んも考えずに、 ポール・デスモンドのボックスを流しっぱなしにして、 だらだら過ごすと、決めたんです。 2年前にモザイクがボックスCD化した、 デスモンド晩年の75年3月と10月に カナダ、トロントのバーボン・ストリート・クラブで録音されたライヴ音源。 アーティスツ・ハウス、ホライゾンの両LPに、テラークのCDを愛聴した...
View Article南アフリカと西アフリカの出会い シンピウェ・ダナ
シンピウェ・ダナのデビュー作ほど、 南ア音楽の新世代登場をはっきりと意識させたアルバムはありませんでした。 80年生まれ、牧師の父のもとで幼少期に教会音楽で育ち、 南ア合唱の伝統をしっかりと受け継ぎながら、 現代女性のパーソナルな表現をあわせ持った シンガー・ソングライターの登場は、それは新鮮でした。 マリからロキア・トラオレが出てきた時のような、時代の変わり目を感じたものです。...
View Articleヒップ・ホップからクワイトへ キャスパー・ニョヴェスト
クワイトの新作を聴くのはひさしぶり。 といっても、4年も前のCDなんですけどね。 いまや絶滅危惧種ものの南ア盤なので、リアルタイムで入手するのは絶望的。 買えただけでも、めっけもんなのであります。 そういう時流無視の物件なので、ひと昔前感があるクワイトですが、 まだまだ現地では、人気が根強いもよう。 ディープ・ハウスの再燃とともに、クワイトの人気が盛り返しているといった記事を...
View Articleストリートに取り戻したカーニヴァル精神 チアゴ・フランサ
チアゴ・フランサ率いる大所帯バンド、 ア・エスペタクラール・シャランガ・ド・フランサのお披露目作。 ブラジル本国でリリースされる気配がないので、 UK盤をプリ・オーダーしていたんですが、大晦日に届きました。 ベロ・オリゾンチ出身、サン・パウロで活躍するサックス奏者チアゴ・フランサは、 メター・メター、キコ・ジヌスィなど、サン・パウロのアヴァン一派のひとり。 そのチアゴ率いるカーニヴァル・バンドは、...
View ArticleオーガニックなUKソウルのシンガー・ソングライター クレオ・ソル
赤ちゃんを抱っこしたまま、ソファに身体をうずめているお母さんは、 家事でヘトヘトになったのか、リラックスしているというより、 身体を投げ出しているといったふう。 リヴィングに降り注ぐ温かな日差しに包まれた母子の写真が、 幸せに満ちた音楽を、雄弁に語っていますね。 ちまたではすでに話題沸騰、クレオ・ソルのセカンドです。 これはなにがなんでもフィジカルにしてくれなくっちゃと、強く願っておりました。...
View Article若さが生み出す妖気 チェット・ベイカー
正月休みにポール・デスモンドのボックスを聴いていたら、 チェット・ベイカーの大名作“CHET BAKSER SINGS” との取り合わせが、 絶妙にお似合いだということに気付いちゃいました。 聴いていたCDは、その昔CD化されたブルー・ノート盤ではなく、 昨年秋にイギリスで出たCDブック。 ブルー・ノート盤は、54年に出たオリジナルの10インチ盤の ジャケットを採用していましたけれど、...
View Articleカンシオーン・ユカテカに父を想う グティ・カルデナス
ポール・デスモンドの流し聴きの合間に、 ふと思い立って棚から取り出した、グティ・カルデナス。 メキシコ・ポピュラー音楽の開祖と呼ぶにふさわしい、 伝説的なギター弾き語りの自作自演歌手ですけれど、 十数年ぶりに聴き返してみたら、ハマっちゃいました。 グティ・カルデナスは、ユカタン半島出身のトロバドール。 18歳でメキシコ市に進出して、故郷のユカタン半島の抒情歌謡、...
View Articleアニヴァーサリーを制作できるマレイ・ポップの底力 シーラ・マジッド
ロックやジャズでは、アニヴァーサリー作が花盛りですけれど、 ワールドに目を向けると、レゲエ以外にはほとんどお目にかかることがありませんね。 東南アジア各国にも名盤はいろいろあれど、 振り返ってみると、それぞれの国でアニヴァーサリーを祝うような 歴史的作品と呼べるものは、案外見当たらないですよね。 かの音楽大国インドネシアですら、これというアルバムは見当たりません。...
View Articleイズマエール・シルヴァのレコード
今月号の「レコード・コレクターズ」の記事絡みで、もうひとつ。 2021年の収穫の記事で、ブラジルの名サンビスタ、 イズマエール・シルヴァの10インチ盤を取り上げたんですが、 入手経緯については、「レコード・コレクターズ」誌を読んでいただくとして、 半世紀にわたって探し続けたレコードなので、届いた時は、本当に感無量でした。 この10インチ盤を必死に探したのは、レヴィヴェンドから出た再発LPで、...
View Article忘れじのレコード屋さん その7 【パイドパイパーハウス】
前々回と前回の記事で、思い出したことがあって、 10年ぶりに「忘れじのレコード屋さん」シリーズの復活です。 伝説化したパイドパイパーハウスについては、 すでに多くの人が語っていて、私ごときが、なにをいまさらなんですが、 たぶんこの方面の話題なら、誰も語っていないのではという話をひとつ。 ウェスト・コースト・ロックにAOR、オールディーズやニュー・オーリンズ方面に...
View Articleグエン・レのディスコグラフィから漏れた名作 セリーヌ・ボナシナ
マイ・フェバリット・ギタリストのグエン・レの名を付したアルバムを発見。 10年にACTから出ていたバリトン・サックス奏者のソロ作なんですが、 知らなかったなあ、このアルバム。 グエン・レのウェブ・サイトのディスコグラフィーにも なぜか載っていなかった参加アルバムで、それじゃあ、気付かないよなあ。 フランス、ベルフォール出身のセリーヌ・ボナシナは、...
View Article北国のジャズが奏でるパーソナルなサウンドスケープ リンダ・フレデリクソン
前回に続いてもうおひとかた、女性バリトン・サックス奏者のアルバムです。 これがソロ・デビュー作という、フィンランドの人なんですが、 すでに数々のバンドでの活躍している人で、 モポやスーパーポジションなど、フィンランドのジャズの新世代グループとして、 10年ほど前から注目を集めていたのだとか。 ぼくは今回初めて知ったのですが、出たばかりのソロ・デビュー作では、...
View Articleストレート・アヘッドなコンテンポラリー・ジャズの快作 カゼンダ・ジョージ
マックス・ローチの歴史的名作にインスパイアされたとおぼしきアルバム・タイトル。 ブルックリンを拠点に演奏しているという、若きサックス奏者のデビュー作です。 BLM運動を背景にしているのかなと思いましたが、 その音楽からは、そうした主張は汲み取ることができません。 カゼンダ・ジョージは、ガイアナ出身の父とジャマイカ出身の母のもと、 バークレーで生まれ育ち、高校卒業後にボストンへ移り、...
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