前回に続いてもうおひとかた、女性バリトン・サックス奏者のアルバムです。
これがソロ・デビュー作という、フィンランドの人なんですが、
すでに数々のバンドでの活躍している人で、
モポやスーパーポジションなど、フィンランドのジャズの新世代グループとして、
10年ほど前から注目を集めていたのだとか。
ぼくは今回初めて知ったのですが、出たばかりのソロ・デビュー作では、
バリトン・サックス、アルト・サックス、バス・クラリネットのほか、
ギターやピアノ、シンセも演奏して、独特の世界を生み出しています。
ジャズというより、シンガー・ソングライター的作風のインスト・アルバムといった趣で、
短編小説を読むような作品の世界に、すっかり取り込まれてしまいました。
リンダのほかは、ローズ、モーグ、プロフェットを弾く鍵盤奏者に、
モジュラー・シンセとモーグを弾く別の鍵盤奏者、ベース、ドラムスの編成。
さまざまなシンセがレイヤーされ、その合間をぬって、
静かに奏でられるピアノの音色は、はかなくも美しく、胸に沁みこみます。
バリトンが咆哮する場面も少しあるものの、
おおむねサックスは、ソフトなトーンで語りかけるように奏でられています。
内省的な楽想に沿って、必要なところで必要な音だけを鳴らしていくサウンドスケープは、
引き算だけで作られているといったアレンジですね。
コンポジションが表現しようとする世界に、
それぞれの演奏者が奉仕するアティチュードが、すみずみまで行き渡っています。
ミュージシャンのエゴをまったく感じさせないところが、
新世代ジャズ・ミュージシャンの作法でしょうか。
音の割れたアクースティック・ギターをぽろんぽろんと弾きながら、
ハミングする曲など、人肌のぬくもりを感じさせるフォーキーな曲では、
北国の家の中でゆらめく、ろうそくの明かりを見る思いがします。
Linda Fredriksson "JUNIPER" We Jazz WJCD40 (2021)