ロックやジャズでは、アニヴァーサリー作が花盛りですけれど、
ワールドに目を向けると、レゲエ以外にはほとんどお目にかかることがありませんね。
東南アジア各国にも名盤はいろいろあれど、
振り返ってみると、それぞれの国でアニヴァーサリーを祝うような
歴史的作品と呼べるものは、案外見当たらないですよね。
かの音楽大国インドネシアですら、これというアルバムは見当たりません。
ロマ・イラマの『ブガダーン』くらいですかねえ。あと、シンガポールで、
ディック・リーの『マッド・チャイナマン』が思い当たるくらいかなあ。
そうやって考えてみると、マレイシアでシーラ・マジッドの『レジェンダ』が
30周年記念作を出したことは、
エポック・メイキングだったといえるのかもしれません。
マレイシアにポピュラー音楽の礎を築いたP・ラムリーの作品を、
90年当時のセンスでアップデイトした『レジェンダ』は、先達をリスペクトしつつ、
マレイ・ポップを時代とともに更新した意義深い名作でした。
これほどアニヴァーサリーにふさわしい作品は、
マレイシアのみならず、東南アジアを見渡したって、他にありませんよ。
『レジェンダ』は、当時日本盤が売れに売れたおかげで、
輸入業者がマレイシア・オリジナル盤を仕入れようとせず、
入手するのに手間取ったのを覚えています。
今回の30周年記念作は、オリジナルのディスク1と、
P・ラムリー、サローマのオリジナル録音を収録したディスク2の2枚組となっています。
オリジナル録音のほうは、レパートリーの録音時期がばらばらなので、
1枚のディスクとして聴くと、統一感がないうらみはあるものの、
『レジェンダ』との聴き比べには、もってこいでしょう。
また、オリジナルのディスク1も、
未発表曲2曲が追加されていたのは、嬉しかったですねえ。
クールなスロー・バラードの‘Malam Ku Bermimpi’ と
ラテン・タッチの‘Kisah Rumah Tangga’ の2曲で、特に前者にはトロけました。
この2曲は、06年にトール・ケース仕様の新装ジャケットでリイシューされた
“LEGENDA XVXX” で、すでに追加されていたんですってね。
知らなかったなあ。その06年のリイシューでは、
その2曲をアルバムのトップとラストに置いていたようですが、
今回はオリジナルの12曲のあとに追加していて、この方が座りはいいでしょう。
ただ1点、苦言を呈するのなら、歌詞だけしか載せなかった制作ぶりでしょうね。
本作の企画となった、P・ラムリーとサローマが切り拓いたマレイ音楽の概説や,
シーラが、プロデューサーのロズラン・アジズや、
マック・チューやジェニー・チンなどのミュージシャンとともに、
モダン化したことの意義をしっかりと書き残すことによって、
次の世代への架け橋とする姿勢を示してほしかったですね。
アニヴァーサリーを制作できる底力が、マレイ・ポップにはあるだけに、
それにふさわしい記念作として欲しかったと思います。
最後に蛇足。
今月号の「レコード・コレクターズ」に本作を紹介したさい、
記事の中で雪村いづみの『SUPER GENERATION』について触れたんですが、
再来年は『SUPER GENERATION』の50周年なんですよね。
ここはひとつ、アルファの限定盤仕様(ゲートフォールド)を再現した
特別記念作をお願いしたいですねえ。日本コロムビア様、よろしくです。
Sheila Majid "LEGENDA" EMI CDFH30055 (1990)
Sheila Majid "LEGENDA: 30TH ANNIVERSARY" EMI 3818936