赤ちゃんを抱っこしたまま、ソファに身体をうずめているお母さんは、
家事でヘトヘトになったのか、リラックスしているというより、
身体を投げ出しているといったふう。
リヴィングに降り注ぐ温かな日差しに包まれた母子の写真が、
幸せに満ちた音楽を、雄弁に語っていますね。
ちまたではすでに話題沸騰、クレオ・ソルのセカンドです。
これはなにがなんでもフィジカルにしてくれなくっちゃと、強く願っておりました。
何度も入荷が延期になって、ヤキモキしていたんですが、
ようやくCDが手元に届きましたよ。
昨年中に入手していたら、ベスト・アルバム入り確実だったんだけど。
柔らかで、あたたかなこのグルーヴ。
ひそやかなコーラスが美しいハーモニーを織り上げ、
ミニマルなフレーズの反復がこのうえなく、ここちよい。
ピアノやシンセにアクースティック・ギターが過不足なく配置されていて、
余計な音はいっさい出てこない、デリカシーに富んだプロダクション。
もうタメ息しか出ません。
誰もが連想するとは思いますが、70年代のキャロル・キングですよね。
コロナ禍の暗い気分を一掃させる、新たな生命の誕生に感謝せずにはおれない、
幸福感に満ちたアルバムです。
UKナイジェリアンのラッパー、リトル・シムズとも関係の深い、
グライム世代ど真ん中の彼女が、
こんなシンガー・ソングライター・アルバムを作るとは意外でした。
キャロル・キングを、グライムのビート・センスで更新したともいえるのかな。
ジャマイカ人の父にセルビアとスペインの血を引く母のもと、
ラドブローク・グローヴに生まれ、
ノッティング・ヒル・カーニバルで育ったクレオ。
「ラドブローク・グローヴ」や「ノッティング・ヒル」と聞いただけで、
耳がピクンと立ってしまう当方ですが、そんなUKカリビアン的な資質も、
ほのかなコンガの響きや、ちょっと崩れたようなチャチャチャのリズムに表われています。
フォーキーな音感をいかしながら、控えめなオーケストラのアレンジも加え、
ゴスペル・クワイアも取り入れたサウンドは、ネオ・ソウルのフレイヴァーもあり、
その優美なサウンドは極上です。
淡々と語りかけるようなクレオの繊細なヴォイス、その平熱感に夢見心地となります。
Cleo Sol "MOTHER" Forever Living Originals FLO0007CD (2021)