すっかりヴェトナム歌謡と縁遠くなってしまった今日この頃、
とタイプして、はたと気付けば、ヴェトナムばかりじゃなくって、
タイ、カンボジア、ミャンマーだって、まったく新作を聴いていませんね。
う~む、遺憾千万、残念無念、千恨万悔、切歯扼腕。
しかたなく旧作を探していたんですが、見つけましたよ、スグレもんを。
ラム・アインという越僑女性歌手の14年作。
おなじみの越僑レーベル、トゥイ・ガから出ていたアルバムなんですが、
これがまたびっくりするほど上出来の内容で、いやぁ、この人誰?と、調べてみました。
ヴェトナムのウィキペディアによれば、
ラム・アインは、87年南部ドンナイ省の省都、ビエンホアの生まれ。
5歳でステージに立ち、10歳から正規の音楽教育を受け、
ドンナイ芸術文化学校を経て、ホーチミン音楽院に進んで卒業しています。
07年にアメリカへ渡り、シアトル、ニュー・ヨークを点々としたのちに、
08年南カリフォルニアへ落ち着いたとのこと。
09年にトゥイ・ガと契約、11年にデビュー作を出しています。
デビュー当初は、若者向けのポップスを歌っていたようですけれど、
本作は年配者向けのノスタルジックな抒情歌謡、
いわゆるボレーロ路線のアルバムです。14年作ということなので、
ヴェトナムのボレーロ・ブームが越僑シーンにも飛び火しはじめた頃のものでしょうか。
レー・クエンがヴー・タイン・アン集を出していたのと、同じ頃にあたります。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2015-02-03
タイトル曲の1曲目、ふんわりとしたシンセサイザーに包まれて、
アクースティック・ギターのアルペジオとともに、
丁寧に歌い出すラム・アインの発声に、レー・クエンを思わせるところがあって、
いきなりドキリとさせられました。
中音域の豊かな声で、情感を込めた歌いぶりも、レー・クエンに迫るものがありますね。
ただ、ラム・アインの方がレー・クエンより軽味があり、後味もあっさりしているので、
レー・クエンの歌唱をしつこく感じるムキには、ラム・アインの方が好まれるかも。
6曲目の‘Phải Chi Em Biết’ は、
レー・クエンも16年作の“CÒN TRONG KỶ NIỆM” で取り上げていましたけれど、
ドラマティックに哀切を歌い上げるレー・クエンとの違いがはっきりと表れていますね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2016-05-12
ラム・アインのふんわりとした泣き節に、彼女の個性がしっかりと聴き取れるんですが、
いずれにしてもレー・クエンと比べてうんぬんできる歌手なので、
表現力抜群の人であることは間違いない、素晴らしい歌手です。
ジャケット内の写真に、菜の花が咲き乱れる畑で、
西日に照らされたチェロを抱えたラム・アインが映っているんですが、
アルバム・タイトルの意は、そんなホンワカとした写真に反して、「岐路」。
人は、誰もが人生の岐路に立たされるときあるということを伝えたかったとのこと。
13年に交通事故に遭い、大怪我をした経験からなのか、
以後こうした抒情歌謡路線に変えたのも、
人生の岐路を彼女が体感したからなのかもしれませんね。
Lam Anh "NGÃ RẼ" Thúy Nga TNCD549 (2014)