アルバム冒頭、ボビー・ブランドのサンプリングが飛び出して、のけぞり。
デューク時代の‘Dear Bobby (The Note)’ だぜ、これ。
そこからするっと、ヒップ・ホップ・ビートに滑り込むというカッコよさ。
R&Bの新人女性シンガー・ソングライターの初フル・アルバムと聞いて
聴き始めたら、いきなりブランドなんだから、びっくりだよねえ。
ニュー・ヨークを拠点に活動するアンバー・マークは、
5年前にEPが大ヒットして注目を浴び、長年フル・アルバムが待望されていた人。
しょっぱなから、一筋縄ではいかないのを予感させるアルバムです。
ジャマイカ人の父とドイツ人の母のもと、テネシーで生まれ、
その後マイアミ、ニュー・ヨークへと移り住んだというアンバーは、
幼少期から母に連れられて、ベルリンやさまざまな外国の地を旅したといい、
音楽を始めたのも、母親からギターを与えられたのが、きっかけだったそうです。
そのお母さんは、チベットの宗教画のタンカを学ぶために、
インド東部ダージリンのチベット仏教僧院に移り住んだこともあるというのだから、
かなりマルチ・カルチャライズされた家庭で育ったんですね。
アンバーは多彩な声の持ち主。曲ごとにさまざまな表情をみせ、
スウィートにもエモーショナルにも、自在に変化できるところが魅力ですね。
ダイナミックに歌えばソウルフルにもなるし、
豊かな低音がスモーキーな味わいを出せば、浮遊感あるファルセットだってイケます。
新人ばなれしているのは、歌ぢからだけでなく、
ブランドをサンプリングするようなクラシックなソウルから、ゴスペル、
ヒップ・ホップ、ファンク、ダンスホール、トラップ、ハウスと幅広い音楽性に加えて、
多くの曲で共同プロデュースする実力を持っていることですね。
さらに驚くのは、エンジニアリングまで手がけていることで、
他のアーティストの作品のエンジニア・ワークで、
グラミー賞にノミネートされた実績まであるんだから、舌を巻きます。
UKガラージとも親和性の高いサウンドは、
オルタナティヴというより王道ポップに近く、
その全方位対応型R&Bは、大ブレイクするんじゃないですかね。
Amber Mark "THREE DIMENSIONS DEEP" PMR/EMI B0034725-02 (2022)