うわぁ、面白いアルバムを発掘してきたなあ。
オウサム・テープス・フロム・アフリカの真骨頂というべきディスカヴァリーですね。
ガボンの8弦ハープ、ンゴンビを弾き歌うパペ・ンジェンギが89年に出したカセット。
ンジェンギが弾くンゴンビに、相方のイヴォン・カセが口弓のムンゴンゴと
太鼓ンゴモを演奏し、女性コーラスとコール・アンド・レスポンスをするもの。
この音楽は、ブウィティと呼ばれる伝統宗教の通過儀礼で演奏されるものなんですが、
そこにシンセ兼プログラミング奏者とギタリストが加わって、
強引ともいえるモダナイズが図られています。
伝統と現代がしっくりと融合するのではなくて、
両者が衝突してスパークするところに面白味を発見する、
オウサム・テープス・フロム・アフリカらしい流儀が発揮されたアルバムですね。
カセットのA面とおぼしき前半にその強引な折衷が聞かれ、
B面と思われる後半は、シンセなどの洋楽器が消えた伝統様式の演奏で、
この音楽の構造を、わかりやすく理解できるようになっています。
ンゴンビの弦さばきが生み出す細かいビートに、
口弓のムンゴンゴが不規則なリズムを加えていき、
太鼓ンゴマがフィルもたっぷりに叩いて、複雑なクロス・リズムを生み出していきます。
おそらく足首に巻き付けていると思われるンケンドと呼ばれる鈴が、
ステディなリズムを鳴らしているのが、耳残ります。
前半は、そこにシンセやエレクトリック・ギターが割って入ってサウンドを占有し、
ドラム・マシンがビートを単純化して、シンセ・ベースがもとの演奏にはない、
大きなうねりを与えているんですね。
なんせ、ワン・コードかツー・コードという、単調極まりない音楽なので、
こういうふうにサウンドを整理しないと、
現代人の耳にはなじめないってことなんだろうけど、
弦楽器の絡みと太鼓が生み出すクロス・リズムだけで、十分に面白味を感じ取れる者には、
ずいぶん説明的な「現代化」だなあと、思えなくもないですね。
ところで、パペ・ンジェンギは、58年頃ガボン南部ングニエ州都のムイラ近郊で生まれた
ツォゴ人ということを知ったとき、えっ?と個人的な興味をひかれました。
音楽とは関係ない話になりますけれど、数年前、ツォゴの彫像が、
アフリカン・アート好きの間で話題になったん(日本ではないですけど)です。
ガボンのマスクや彫像というと、ファング、
クエレ、プヌ、コタが有名ですけれど
(『音楽航海日誌』をお持ちの方は、
571ページを見てくださいね)、
ツォゴのマスクや彫像は、これまで体系的に
紹介されたことがなかったんですね。それが16年に
出版された“TSOGHO, Les Icônes du Bwiti” で、
ツォゴ人の伝統宗教ブウィティで使われる彫像が
まとまって紹介されたのです。
パペ・ンジェンギの演奏する音楽が、
まさしくこれなので、びっくらぽんだったのです。
Papé Nziengui et Son Group "KADI YAMBO" Awesome Tapes From Africa ATFA029 (1989)
[Book] Bertrand Goy "TSOGHO, Les Icônes du Bwiti" Gourcuff Graden (2016)