うわぁ、これは痛恨の聴き逃し案件であります。
キューバの名歌手オマーラ・ポルトゥオンドの18年作。
18年に聴いていたら、これ、ぜったい年間ベストに入れたなあ。
何が素晴らしいって、オマーラの歌唱ですよ。
録音時87歳というオマーラですけれど、
本作を聴いて、本当に大歌手だなあと、しみじみ感じ入ってしまいました。
というのは、みずからの老いに抗わず、強く声を張るなど、
昔と同じ歌唱をする無理はしないで、引いた歌い方をしているんですね。
昔だったら、もっとキリッと歌い切っただろうなあと思われる箇所も、
ふわっと着地させるような歌い方に変えているんです。
今の自分がもっとも映える歌唱スタイルを考えて、
しっかりと歌唱の方向性を見直しているんですね。
多くの歌手が老いに立ち向かうなかで苦労するところを、
オマーラは、見事にその課題をクリアしています。
それが簡単なことではないのをよく知るだけに、余計に尊敬の念を深くします。
それを痛感したのが、‘Y Tal Vaz’ の再演。
95年の傑作“PALABRAS” に収録されていた、忘れられない名曲です。
バン・バンとの共演で、ジャジーなボレーロにアレンジしていて、
そのアレンジにもハッとさせられましたが、
オマーラが見事に力の抜けた歌唱を聞かせていて、トロけました。
この曲をこんなメロウに変えて聞かせるのは、
いまのオマーラならではといえるんじゃないですかね。
スローなボレーロばかりでなく、セプテ-ト・サンティアゲーロをフィーチャーした
ソンの‘La Rosa Oriental’ でもキレのあるビートに負けず、
力のある歌いぶりを聞かせつつ、カドの取れた声にグッとくるわけですよ。
オマーラ節はちっとも変わっていないのに、
発声など声量のコントロールを変えて、「老いを隠す」のではなく、
「老いを味方に変え」ているんですね。スゴくないですか。
そんな進化を続けるオマーラに、伴奏陣も見事に応えています。
アレンジは、イサック・デルガドやチューチョ・バルデースをはじめ、
スペインでジャズやフラメンコ・シーンでも活躍するベーシストのアレイン・ペレスが担当、
ロランド・ルナが冴えたピアノを聞かせていて、‘Sábanas Blancas’ のリフや、
‘Para El Año Que Viene’ のソロで聞かせるタッチに、ホレボレとしました。
ゲストも豪華で、先に挙げたバン・バン、ベアトリス・マルケス、ディアナ・フエンテス、
アイメー・ヌビオラほか、ボーナス・トラックではリラ・ダウンスとデュエットしています。
でも、悪いけど、そんな豪華なゲストに耳が奪われる場面はほとんどなく、
オマーラの歌いっぷりに、ひたすら感じ入ってしまうばかり。
むしろゲストたちととの交歓ぶりは、付属DVDのレコーディングのメイキング・ヴィデオで
たっぷりと楽しめ、本当にいいレコーディングだったんだなあと、実感しました。
タイトルがいみじくも示すとおり、「いつまでも<大歌手の>オマーラ」であります。
[CD+DVD] Omara Portuondo "OMARA SIEMPRE" Egrem CD+DVD1512 (2018)
Omara Portuondo "PALABRAS" Nubenegra NN1.011 (1995)