ジャズやファンクのほか、アフリカやカリブ方面のリイシューを専門とするストラットが、
どういう風の吹き回しか、アフガニスタンのガザル歌手のアンソロジーをリリース。
これまでアフガニスタン古典歌謡のアーカイヴが世界に紹介されることなど、
皆無だっただけに、これは貴重な復刻と、思わず目をむきました。
ナシェナスという歌手は、今回初めて知りましたが、
アフガニスタン古典歌謡の先達たち同様、インド古典音楽の教育を受けた、
軽古典の歌手のようですね。端正な歌い口でガザルを歌っていますけれど、
う~ん、とりたてて秀でた才を感じさせる人じゃないですねえ。
この程度の歌手なら、いくらでもいたんじゃないの?
せっかくアフガニスタンのガザル歌手のアンソロジーを作るなら、
もっと先に紹介すべき大事な人がいるだろと、鼻息荒く、
昔夢中になった人のCDを、棚から引っ張り出してきました。
それが、ムハンマド・フセイン・サラハン(1924-1983)。
ぼくがサラハンを知ったのは20年くらい前で、当時すでに故人でしたけれど、
アフガニスタンにこんなスゴイ歌手がいたのかと、ビックリしたものです。
多くのアフガニスタンの古典声楽家と同様、
サラハンも幼い頃から北インドへ音楽修行の旅へ出て、16年間の修行をしています。
25歳になってようやくカブールへ帰郷し、ヒンドゥスターニー声楽のカヤール、
軽古典のトゥムリー、恋愛詩のガザルなど、さまざまなレパートリーを歌って人気を博し、
アフガニスタンを代表する巨匠に登りつめたのでした。
たっぷりとした声量に、深みのある声がもう素晴らしくって、
硬軟を使い分ける歌いぶりに、ホレボレしますよ。
さりげないサレガマの発声ひとつとっても味があるし、
即興で高い声をころがしながらテクニカルなフレーズを歌うところなど、
カッワーリーをホウフツさせます。
これほどの人なのに、正規版のCDがなく、国外ではまったく知られていません。
LP時代では、インド盤や旧ソ連盤を別にすると、
61年のフォークウェイズ盤『アフガニスタンの音楽』(FW04361)所収の1曲くらいしか
知られていないんじゃないかな。
昔ぼくが夢中になって集めたのは、
亡命したアフガニスタン人が持ち出した音源から制作したとおぼしき私家盤CDです。
内容は、ラジオ録音と思われるものから、家庭用レコーダーで
客席から録ったような粗悪な録音まで、さまざまあります。
ライヴDVDは、アフガニスタンでテレビ放映されたものなんじゃないかと思うんですが、
編集もしっかりしていて、往時のサラハンのパフォーマンスをじっくり堪能できます。
どれも2000年代の初めに、
在米アフガニスタン人のオンライン・ショップから買ったものです。
ナシェナスのアンソロジーは、カブールのラジオ・アフガニスタン・スタジオで
録音された放送用音源がソースだったようですけれど、
サラハンの音源は残っていないんでしょうか。
タリバーンに破壊しつくされたアフガニスタンで、
こうした音源がもし残っているのであれば、ぜひ発掘してもらいたいものですねえ。
Ustad Mohammad Hussin Sarahung "MUQAME HUNER" Sartaj Music SMCD6
Ustad Mohammad Hussin Sarahung "SHABE BAYDEL" Sartaj Music SMCD7
Ustad Mohammed Hussein Sarahang "SABHODAM" Marcopolo International Enterprises no number
Ustad Mohammed Hussein Sarahang "LIVE IN CONCERT - NAZI JAN" Nala Studio no number
Ustad Sarahang "KHARABAT MOGHAN" Afghan Music AM9802
Ustad Sarahung "GANJ HAZAL" Nillab Music NM164-98
Ustad Sarahung "KHARABAT" Nillab Music NM170-99
[DVD] Ustad Sarahang "LIVE" MPI Enterprises no number