なんていい写真!
ストリートを練り歩くセカンド・ラインを眺める母と子のショットに感動して、
サンプル試聴もせずに買った、トロンボーン・ショーティの新作。
これがとびっきりの会心作で、もう嬉しいったら、ありません。
こういうのを、ずっと待ってたんだよー。
トロンボーン・ショーティの作品って、いつも優等生的というか、
きれいにまとめすぎていて、もっと破れたところが欲しかったんですよね。
ライヴのパワフルなパフォーマンスを知っているだけに、
ステージの熱量がアルバムにはちっとも反映されていないのが、不満だったのです。
本作には、そのライヴ感いっぱいのエネルギーが溢れていますよ。
なんといっても、トロイ・アンドリュース(トロンボーン・ショーティ)自身の
ヴォーカルが、グンと逞しくなっているじゃないですか。
コーラスとともに、拳を突き上げるかのように歌う、パワフルな歌唱が胸をすきます。
ルイジアナ出身のクリスチャン・ミュージック・シンガー、ローレン・デイグルとの
デュエットでも、唾を飛ばしまくるような奔放な歌いっぷりが、実に生々しい。
バイユー・ファンクにロックのエネルギーを注ぎ込んだバンド・アンサンブルも、
吹っ切れていて、ライヴ・ステージの興奮をよく再現しています。
ゲイリー・クラーク・ジュニアのヘヴィーなロック・ギターが唸る
‘I'm Standing Here’ では、ショーティのトロンボーンもいつにも増して、
豪放なソロをキメていますよ。
ニュー・ブリード・ダンス・バンドを迎えた‘Everybody in the World’ のグルーヴ、
タイトル曲‘Lifted’ のロックに寄せてドライヴするダイナミズムも、サイコー。
エネルギッシュな曲のあとで、スウィートなポップ・ソウル‘Forgiveness’ に
展開するところも、ニクいアルバム構成ですね。
アップタウン・ファンクの‘Miss Beautiful’ には、ディスコ魂を刺激されちゃいましたよ。
それにしても、このジャケット写真、
マグナム・フォトのアーカイヴからチョイスしてきたのかなと思ったら、
写っているのは、本物のトロイ母子だというのだから、びっくり。
こんな写真を撮れるのは、きっと名のあるフォトグラファーに違いないと思ったら、
なんと、マイケル・P・スミスじゃないですか。ニュー・オーリンズ出身の写真家で、
ニュー・オーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバルでの
数々の名写真を残している人ですよ。マイケルの名を知らない人でも、
ジェイムズ・ブッカーやプロフェッサー・ロングヘアの写真を知らない人はいないはず。
そうか、トロイはわずか4歳でニュー・オーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバルに
出演して、ボ・ディドリーと共演している神童ですからね。
マイケルが撮っていても不思議はないんですね。
このアルバムは、ここに写る母ロイス・ネルスン・アンドリュースに捧げられていて、
タイトルどおり、まさにこの母に引き上げられて、いまの自分があると、
愛と感謝を送ったアルバムなのですね。
ロイスは、ニュー・オーリンズR&Bの大物シンガー、ジェシー・ヒルの娘。
トロイはまさにニュー・オーリンズの音楽文化のただ中から誕生した神童だったのです。
お母さんの背筋を伸ばしてきりりと立つ姿と、澄んだ瞳が印象的です。
後ろに写るセカンド・ラインの演奏者たちのボケ味も最高で、
眺めれば眺めるほど味の出る写真です。
オリジナル・プリントが欲しくなって、
RequestAPrint のマイケルのページをチェックしてみたんですけど、
この写真は販売されていませんでした。
ボ・ディドリーに見守られてトロンボーンを吹く、
4歳の時のトロイ少年のバックステージでの写真はあったんですけどね。
このアルバムに使われたのを機に、販売されないかなあ。
しばらくしてから、またチェックしてみようっと。
Trombone Shorty "LIFTED" Blue Note B003456902 (2022)