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ントゥの精神で ンドゥドゥーゾ・マカティーニ

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Nduduzo Makhathini  IN THE SPIRIT OF NTU.jpg

Ntu(ントゥ)。
南ア・ジャズのピアニスト、ンドゥドゥーゾ・マカティーニの新作タイトルに、うむむむ。
ひさしぶりにお目にかかったなぁ、このワード。

ントゥとは、アフリカ思想における重要キーワード。
アフリカの口承文化の研究を通じてアフリカの哲学を体系化した、
ルワンダの哲学者アレクシス・カガメ(1912-1981)が、提唱した概念です。
ントゥとは「力」を意味します。この世に存在する万物すべてに普遍的な力があり、
存在そのものを意味するものと、カガメは説明しています。

ントゥが備わる存在を、ムントゥ(知性を与えられた神々や人間)、
キントゥ(動植物や鉱物などの事物)、クントゥ(言葉やリズムに象徴される様相)、
ハントゥ(事物を生起させ配列する空間と時間)の4つに分類して、
カガメはアフリカ人の思想と世界観を解き明かしました。

ヤンハイツ・ヤーン  アフリカの魂を求めて.jpg

カガメの哲学を広く世界に知らしめたのが、ドイツ人アフリカ文学者の
ヤンハイツ・ヤーンの『アフリカの魂を求めて』です。
ぼくがこの本を読んだのは、高校3年。
音楽や美術を通じてアフリカへの関心を高めていた時だっただけに、
強烈に影響されたんですよ。あまりに影響を受けすぎて、
のちに弊害すらおぼえることとなった、ぼくにとってのアフリカの教科書です。

この本との出会いをきっかけに、
バジル・デヴィッドソン、マルセル・グリオール、エヴァンズ=プリチャードなど、
アフリカ史や民族誌をかたっぱしから読み漁るようになったんでした。
その昔、もっとも影響を受けた本という質問に、
和辻哲郎の『風土』とともに、『アフリカの魂を求めて』を挙げたことをおぼえています。

はや聴く前から、タイトルだけで盛り上がってしまいましたけれど、
『ントゥの精神で』と名付けられた新作、いやぁ、すごい力作じゃないですか。
ンドゥドゥーゾが追及するスピリチュアルな南ア・ジャズを、また一歩深めましたね。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2020-05-31

前作とはメンバーをがらりと代え、ゲストのアルト・サックスのジャリール・ショウと
ヴォーカリストのアナ・ヴィダワー以外、
すべて南アの若いミュージシャンを起用しています。
マブタやアッシャー・ガメゼなどで活躍するトランペットのロビン・ファッシー=コックに、
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2018-05-06
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2021-02-05
今月新作が発売されるテナー・サックスのリンダ・シカカネが参加していますよ。

ピアノの左手とヴィブラフォンが反復フレーズをひたすら繰り返し、
ドラムスとパーカッションが緻密なポリリズムを組み立てる
オープニングの‘Unonkanyamba’ は、
テナー・サックス、ピアノ、トランペットが出入りして即興をする疾走感溢れるトラック。
ンドゥドゥーゾの右手がパーカッシヴな和音でアグレッシヴに迫ったり、
散発的なフレーズを組み立てたりと、アブドゥラー・イブラヒムゆずりのプレイを
聞かせていて、頬がゆるみます。これぞ南ア・ジャズのピアノでしょう。

情熱的な‘Emlilweni’ もいいなあ。ゆっくりと燃え上がる、
ゲストのジャリール・ショウの好演が聴きもので、
フェイド・アウトになるのが惜しすぎます。
‘Abantwana Belanga’ もフェイド・アウトしてしまうんだけど、完奏を聴きたかった。
ズールーらしいメロディの‘Omnyama’ は、マスカンダを不協和に変調したような曲。
雄大なスケール感は、南ア・ジャズならではですね。

そんな熱狂的なトラックの合間にはさまれる、スピリチュアルなトラックも魅力です。
ンドゥドゥーゾが音楽家としてサンゴマの役を果たすような祈りを感じさせる‘Mama’、
不穏な‘Nyonini Le’、哀愁を帯びた‘Senze' Nina’ も暗示的です。
そして、ラストの‘Ntu’ は、自身の内面と会話しているかのようなトラック。
いやぁ、ンドゥドゥーゾ、あらためてスゴいアルバムを作っちゃったなあ。

ジャケットもいいじゃないですか。
古典的なキュービズムの絵はフアン・グリスかなと思ったら、
なんと現代作家による新しい絵だとか。
角張った目と唇のフォームなんて、ソンゲ人(コンゴ)の仮面のパクリだよなあ。
かつてピカソやブラックがアフリカン・マスクを描いたように、
モチーフも模倣しているわけね。

ふと本棚に目を移せば、『アフリカの魂を求めて』は、
いつでも取り出せる目立つところに置いてあります。
といっても、その昔、意識的に離れたこともあって、もう長いこと読んでいません。
すっかり背表紙が色褪せてしまいましたけれど、
四半世紀ぶり(もっとか?)に再読してみようかな。

Nduduzo Makhathini "IN THE SPIRIT OF NTU" Blue Note B003526602 (2022)
[Book] ヤンハイツ・ヤーン著 黄 寅秀訳 「アフリカの魂を求めて」みすず書房 (1976)

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