オーストラリア人プロデューサーが企画した、
キューバとジャマイカのヴェテラン・ミュージシャンによる
コラボレーション・プロジェクト、「ハヴァナ・ミーツ・キングストン」
(英文のため、「ハバナ」は英語でカナ表記)の新作。
続編が作られるとは予想だにしていなかっただけに、嬉しいリリースです。
5年前の前作は、サウンドトラックと聞いてたんですが、
とうとう日本では映画は公開されず、ガッカリ。観たかったなあ。
それにしても前作は、ほとんど話題にもなりませんでしたよね。
「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の過大評価に比べて、
こちらの冷遇ぶりはなんだよと、ちょっとフンガイしたもんです。
音楽的な実りでいったら、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」より
はるかに豊かな成果のあったプロジェクトだというのにねえ。
レゲエのリディムと、ソンのサボールがこれほど見事に溶け合うなんて、
いや、想像のはるか上をいってましたよ。
それなのに、時代の運に恵まれなかったというか、
そもそも「ブエナ・ビスタ…」が波に乗りすぎていたというか。
前作を記事にしそこねた悔いが残っていただけに、
新作が出ると聞いて、今度こそ書かなきゃと、心に決めていたのでした。
キューバとジャマイカという同じカリブ音楽ながら、水と油といってもいいほど、
その音楽性も、歴史も、美意識も、なにからなにまで違う両者を引き合わせて、
見事融合に成功させたプロジェクトは、高く評価してしかるべきもの。
キューバとジャマイカの出会いでいえば、
スカ・クバーノという試みも過去にはありましたけれど、
アイディア勝負的なコンセプトにとどまらない深さが、このプロジェクトにはあります。
前作の、‘Chan Chan’ ‘Candela’ ‘El Cuarto De Tula’といった
ブエナ・ビスタでおなじみのソンのナンバーをレゲエ化したり、
ボブ・マーリーの‘Positive Vibration’ をキューバ風味に仕上げたりと、
キューバ音楽とジャマイカ音楽を相互乗り入れするアプローチは、今回も同様。
新作では、冒頭からいきなりナイヤビンギを混ぜ合わせたガンボぶりが美味。
こういうミクスチャーって、ニュー・オーリンズのクレオール流儀を感じません?
前作は、サボール感を溢れさせたヴォーカル・トラックが多めでしたけれど、
今回はラガマフィンに寄せたトラックが多いような。
ホーン・セクションを加えてゴージャスに仕上げた曲もあるなど、
前作と微妙に趣を変えているところが妙味です。
キューバとジャマイカを絶妙にバランスさせたプロデューサー、
ミスタ・サヴォーナの手腕に感服します。
聴きものは、やっぱりトリオ・マタモロスの代表曲‘Lágrimas Negras’ かな。
キューバ名曲中の名曲「黒い涙」が、かくも違和感なくレゲエになるのかという
驚きのアレンジで、原曲とは表情を変えたジャジーさにモダンなセンスをみせつつ、
どう料理しようとも変わらないメロディの哀歓に、あらためて感じ入りましたねえ。
最後に、ちょっと気になったのは、
裏ジャケットのハバナのストリートで撮ったメンバーの集合写真。
これ、前作のインナー・スリーヴに見開きで載っていた写真と同じだよねえ。
これだと前作を持っている人は、
今作は新録じゃなくて、前作のアウトテイク集と誤解しちゃうんでは。
VPからクンバンチャにレーベル移動しても、
ジャケットのアートワークに連続性を持たせたのは正解だったけど、
前作の写真の使い回しは、配慮に欠けたんじゃないかしらん。
v.a. "MISTA SAVONA PRESENTS HAVANA MEETS KINGSTON" VP VP4219 (2017)
v.a. "MISTA SAVONA PRESENTS HAVANA MEETS KINGSTON PART 2" Cumbancha CMBCD156 (2022)