ピエール・クウェンダーズにノック・アウトを食らったのが、ちょうど5年前。
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コンゴ・ルンバレーズをベースにしたエレクトロニック・ミュージックに、
アフリカ音楽の可能性を見た思いがして、めちゃカンゲキしたんですけど、
世間的にはまったく話題になりませんでした。
古くからのアフリカ音楽ファンの反応も冷淡で、う~む、遺憾なり。
3作目となる新作は、じっくりと聞かせる、落ち着きのある内省的な曲が増えましたね。
衝撃的な前2作と比べて、一聴地味に感じますが、サウンドは成熟しましたよ。
ダンス・チューンでは、前作に続いて参加のテンダイ・マライレがプロデュースした
‘L.E.S. (Liberté Égalité Sagacité)’ ‘Papa Wemba’ で、新しい試みが聞けます。
この2曲って、クーペ=デカレだよね。
1曲目の ‘L.E.S. (Liberté Égalité Sagacité)’ は、
フランスの国是「自由、平等、友愛」を「自由、平等、慧眼」に変えているんですけれど、
これ、コート・ジヴォワールのクーペ=デカレの代表的シンガー、
故ドゥク・サガの05年の大ヒット曲 ‘Sagacité’ を参照しているんじゃないのかな。
シンセ・ベースのリフにパーカッションの生音が絡み、
やがてシンセが何層にもレイヤーされて、ゆるやかなグルーヴを巻き起こし、
壮大なサウンドスケープへと発展していく、9分半におよぶ長尺曲なんですが、
イントロが ‘Sagacité’ と同じ作りなんですよね。BPMは落としているけど。
ほかにもずばり‘Coupe’ なんて曲もあるし、
クーペ=デカレへのオマージュは確かでしょう。
ちなみにテンダイ・マライレは、コンゴ系アメリカ人ギタリストのフセイン・カロンジとの
ヒップ・ホップ・デュオ、チムレンガ・レジスタンスで活躍するラッパー。
フセイン・カロンジも参加していて、先の2曲ではキレたギターを披露しています。
ところで、テンダイ・マライレが、ジンバブウェのンビーラの巨匠、
ドゥミサニ・マライレの息子だって、知ってましたか? そう、故チウォニーソの弟ですよ。
https://bunboni58.blog.ss-blog.jp/2013-07-27
オリヴァー・ムトゥクジの娘で歌手のセルモル・ムトゥクジと結婚して、
セルモルのアルバムをプロデュースもしています。
ンビーラの反復フレーズに聖歌隊のコーラス、
優美なストリングスがブレンドされたラストの ‘Church’ まで、
多様な音楽を丁寧な手さばきで織り上げたタペストリーのような作品。
そのクリエイティヴィティに、アフリカ音楽の未来がはっきり見えますよ。
Pierre Kwenders "JOSE LOUIS AND THE PARADOX OF LOVE" Arts & Crafts Productions AC205CD (2022)