おぉ、そうだ。このアルバムも良く聴いたっけなあ、と取り出したCD。
女性では珍しいスラック・キー・ギタリストの、ジョアニー・コマツの95年作です。
リトル・パインというレーベル名は、名字の小松を指しているんだろうから、
自主制作盤なんでしょうね。
リリース当時ですら、ほとんど注目を集めることもなかったCDですけれど、
当時人気の高かったテレサ・ブライトより、ぼくは才能のある人と思っていました。
このアルバム一枚で消えちゃったみたいで、なんとも残念なんですけれどね。
07年に山内雄喜さんが出版されたハワイ音楽ディスク・ガイドの
『ハワイアン・ミュージック』のセレクトに漏れたのは、ガッカリだったなあ。
スラック・キー・ギタリストのアルバムといっても、ごりごりの伝統派ではありません。
スラック・キー・ギターに、コンテンポラリー・ハワイアン風味を加味したアルバムで、
ハワイアン・フォーキーといったムードの爽やかなアルバムだったんです。
潮騒のSEで始まるオープニングからして、
しっかりとプロデュースされていることが予感できますよね。
ハワイの名プロデューサー、ケネス・マクアカネの手腕が光ったアルバムです。
ギタリストだけでも、サニー・チリングワース、オジー・コタニ、ケオラ・ビーマーといった
名手が居並び、ダニエル・ホーが本来のスラック・キー・ギターではなく、
キーボードとシンセで参加しています。
スラック・キー・ギターの生音の弦を生かしたサウンド前面に出しながら、
シンセサイザーなどの鍵盤類を控えめに配しています。
時折顔を出す、鼻笛やスティール・ギターが、ハワイらしいサウンドを演出していますね。
ちなみに鼻笛は、ジョアニーの妹のルース・コマツが吹いています。
自主制作盤といっても、しっかりとしたプロダクションにのって歌う、
ジョアニーの歌声がまたいいんです。
ぼくがジョアニーを高く評価していたのは、その歌唱力でした。
語尾を伸ばした音が切れ切れになる、独特のヴィブラートがとても個性的で、
その美しさは、他の歌手にはないものでした。
久しぶりに聴き直しましたけれど、やはり得難い味わいがあります。
スラック・キー・ギタリストというポジションを明確にしたうえで、
流行のコンテンポラリーに押し流されることもなく、ほどよいポップ感覚を発揮して、
ジョアニーの透明な歌声を生かした、知られざる傑作です。
このあとジョアニーは、スラック・キー・ギターの名レーベル、ダンシング・キャットの
クリスマス・アルバムに、大勢のギタリストとともに名を連ねて演奏を残しましたが、
それを最後に消息がわからなくなってしまいました。なんとも残念です。
Joanie Komatsu "WAIMAKA’OLE - WITHOUT TEARS" Little Pine Productions LPPCD1004 (1995)