「ポップ・ムラユ・クレアティフ」?
<クレアティフ>ってなんじゃいと思ったら、インドネシア語の<クリエイティヴ>だそう。
泣き節で一世風靡したヴェテラン・ダンドゥット歌手のイイス・ダーリアの新作は、
クリエイティヴなポップ・ムラユ集を銘打っています。
その中身はいかなるものかと思ったら、
60~70年代のオルケス・ムラユ時代を思わす、初期ダンドゥットのサウンド。
マレイ歌謡色濃厚なサウンドとはいえ、ダンドゥットであることは間違いないのに、
あえてダンドゥットを名乗らないところは、ムラユ・ブームを当て込んでのことなんだろうな。
イイス・ダーリアといえば忘れられないのが、95年に大ヒットした“Kecewa” です。
インドネシア独立50周年の年に、いにしえのムラユを取り上げた企画作で、
泣きの女王と呼ばれたイイスの持ち味が発揮された傑作でした。
面白いのは、あの当時は「ノスタルジア・バラーダ・ダンドゥット」というふれこみだったことで、
ノスタルジアと言っても、ムラユの名は出さなかったのに、今や反対となったわけか。
そういえば、97年にはカメリア・マリック、エフィ・タマラと組んだ3人組で、
「バラーダ・ダンドゥット」なんてアルバムも出していましたっけね。
イイス・ダーリアが本格的なムラユ歌謡に挑戦したアルバムとして忘れられないのが、
00年の“ASMARA KURINDU” でした。艶やかなヴァイオリンやアコーディオン、
アクースティック・ギターを配して、P・ラムリーの曲をアシュラフとデュエットするなど、
見事なムラユ・アルバムになっていました。
企画作ながら、イイス・ダーリアの名作として忘れられないアルバムです。
で、新作はその“ASMARA KURINDU” をも上回る、最高傑作に仕上がりましたね。
しとやかな美声に磨きがかかり、軽やかになった声は、より魅力が増しています。
以前は歌い上げるところや、泣き声を強調するところに、
少し重ったるさを感じるところもあったんですけれど、
今作では抑えた歌唱でふんわりと歌うようになっていて、すっかりマイっちゃいました。
アコーディオン、ヴァイオリン、ルバーナがムラユ歌謡の哀感を引き立てるとともに、
スリン、シンセ、ロック調のギターが下世話なダンドゥッドのサウンドを盛り上げるという、
大衆味たっぷりのプロダクションも申し分なく、大満足であります。
ひと昔前にはイェット・ブスタミのアルバムで盛り上がったこともありましたけれど(覚えてる?)、
これもまた、エレガントなムラユ歌謡にルーツ回帰したダンドゥット傑作です。
Iis Dahlia "POP MELAYU KREATIF : DIVA ASMARA" Insictech Musicland 51357-23642 (2015)
Iis Dahlia "KECEWA" HP/Musica HPCD0054 (1995)
Sekar Langit (Iis Dahlia, Camelia Malik & Evie Tamala) "BALADA DANGDUT" Blackboard/HP CI66 (1996)
Iis Dahlia "ASMARA KURINDU" HP/Musica HPCD0107 (2000)