パレスチナ人歌手のアルバム? これは珍しいですね。
リーム・タルハミは、90年代半ばにワシェムというパレスチナ人グループで
歌手を務めていたという人だそうで、これがソロ・デビュー作のようです。
ウード、ヴァイオリン、カーヌーンといった弦楽器に、
ベース、ドラムス、ダルブッカ、リクのリズム・セクションが付くだけという
シンプルな編成には、ちょっと意表を突かれました。
アラブのポップスといえば、ゴージャスなプロダクションの
シャバービーのような歌謡に耳慣れているせいか、
このシンプルなサウンドは、新鮮でした。
トルコの新作古典歌謡にも通じる味わいのサウンドともいえますが、
こちらは古典ではなく、まぎれもなくポップだという手触りを残すのは、
曲のモダンなセンスゆえでしょうね。
アラビック・ジャジー・ポップとでもいいましょうか。
リームは、エルサレムのルービン音楽舞踏アカデミーで声楽を学んだというだけあって
発声が美しく、こぶし回しも実に巧み。演劇的ともいえるその唱法は個性的で、
アルバムを聴き進めるうちに、ぐいぐい惹きつけられました。
そして驚いたのは、全曲の作曲とアレンジを、
レバノン人DJサイード・ムラッドが務めていたこと。
テクノ/ハウス系DJとばかり思っていたサイード・ムラッドが、
こんなシンプルなプロダクションで、アダルトな味わいを醸し出す曲を作るとは、
予想だにしませんでしたねえ。
そして作詞は、パレスチナの詩人で児童文学の作家としても有名なハレド・ジュマが、
このアルバムのために書き下ろしています。
物語を語るように歌うリームの繊細な歌いぶりと、
デリケートな弦楽アンサンブルの演奏は、まさしく詩的な美しさに満ち溢れています。
アルバム・リリースのお披露目コンサートは、ガザで行われたのだそうで、
その場所を選んだリームの思いは、パレスチナの人々の魂に強く響いたことでしょうね。
Reem Talhami "YIHMILNI ELLEIL" no label no number (2013)