セウ・ジョルジやロジェーを思わす、ストリート育ちの色気溢れるそのヴォーカル。
柔らかなギターのバチーダに導かれて歌い出すフィオチの歌い口に、背中ぞわぞわっ。
セウ・ジョルジほどやさぐれてはいないとはいえ、
どことなく影のある苦み走った声に、こりゃ、たまら~ん。
たった6曲入りのEP扱いというミニ・アルバムながら、
デジパックのジャケットには、コード付きの歌詞も載せた、
32ページにおよぶ分厚いソングブックが封入され、
デビュー作にかけた意気込みが伝わってきますよ。
「ノーヴァ・ムジカ・ポプラール・ブラジレイロ」とジャケットの片隅に謳われていますが、
サンバをベースにソウルやレゲエを取り入れた音楽性は、ことさら新しい要素はなく、
むしろ70年代MPBに回帰したポップ・アルバムといえます。
今の若手には、オールド・スクールな70年代MPBの方が、新しく感じられるんでしょうか。
フィオチことエヴァンドロ・フィオチは、
B-ヒップ・ホップの新進ラッパーとして注目を集めるエミシーダと兄弟。
クリオーロとの共演などで存在感を増すエミシーダを、
フィオチはレーベル運営などミュージック・ビジネス面から支える裏方役でしたが、
今度は自身も歌手デビューしたというわけですね。
サンパウロのミュージック・シーンに通じていることから、起用したミュージシャンも豪華で、
ロドリゴ・カンポスに日系ブラジル人ドラマーのクルミンはじめ、
サンパウロのユニークなミクスチャー・グループとして注目を浴びる
メタ・メタの女性ヴォーカリスト、ジュサール・マルサルと、
サックス奏者のチアゴ・フランサ(本作ではフルートをプレイ)が参加しているのが注目されます。
ロドリゴ・カンポスと共作したサンバ・ソウルでは、ロドリゴがカヴァキーニョを弾いていますよ。
6曲すべて趣向を変えたカラフルなサウンドで充実した内容のEP、
はやくもフル・アルバムへの期待が高まります。
デビューEPはすごく良かったのに、フル・アルバムが出たら、あれ?
なんてMPB作品もままあるので、そうならないことを期待しましょう。
Fióti "GENTE BONITA" Laboratório Fantasma PD0017 (2016)