アルジェリア北東部オレス山地に暮らすベルベル系民族のシャウイ人の音楽といえば、
近年流行しているスタイフィを耳にできるようになりましたけれど、
スタイフィのルーツであるシャウイの伝統音楽とは、なかなか出会うチャンスがありませんでした。
シャウイの伝統音楽を聞いてみたいと、強く意識するようになったのは、
フリア・アイシがフランス、ストラスブール出身の5人組ヒジャーズ・カールと組んで発表した
08年の“CAVALIERS DE L’AURÈS” がきっかけでしたね。
ヒジャーズ・カールの斬新なサウンドで、シャウイの伝統音楽をモダン化したアルバムでしたが、
そのユニークなサウンドよりも、フリアの強力なこぶし回しに圧倒されました。
こういう激しさこそ、シャウイ民謡独特の個性だと知らされては、
もっとディープなシャウイの伝統音楽を聴きたくなろうというもの。
その後、シャウイの伝統音楽の巨匠で、
アイッサ・ジェルムーニ(1886-1946)という歌手の存在を知りました。
なんでも、アラブ人として初めてフランスでレコーディングを行い、
37年にはパリのミュージック・ホール、オランピアで公演を果たしたというのだから、たいへんです。
伝説的なエジプトの大歌手ウム・クルスームのオランピア公演より、30年も前の出来事ですよ。
え~、そんな人がいたのかと、驚かされたんですが、
当時の音源を復刻した単独LPの1枚すらないんですね。
調べてみると、30年にチュニスで初録音、
33年に“Nabda Bismillahi” がヒットとなりマグレブ諸国で大人気を呼び、
パリで30回に及ぶレコーディングを残した人だというのに。
LP化すらされていないので、CDだってもちろんなし。
というわけで、すっかりアイッサ・ジェルムーニの名も忘れかけていたところだったんですが、
アルジェリアから買い付けられてきたCDの中にアイッサの名を見つけ、狂気乱舞。
しかも、2タイトル! 実はもう1タイトル出ているんだそうですけれど、とにもかくにも、ヤッター !!!
装丁は簡素な紙パック・ジャケで、思わず海賊盤かと疑るムキもありそうですが、とんでもない。
なんとレーベル名は、由緒正しくEdition Ouarda Phone とありますからね。
これ、アイッサが30年代にパリでレコーディングした音源を
原盤所有するWarda-Phone と同じでしょう。
長年聴きたいと切望してきたシャウイ伝統歌謡を、ついに初体験。
すごい! たっぷりとした声の厚みに、音の圧。
この豊かな声量は、素晴らしいというほかありません。
葦笛ガスバ、片面太鼓ベンディールを伴奏に、
オ レスの山々にとどろく、晴れ晴れとしたな歌声が圧倒的です。
かつてシャウイ人は、「ラヤン・エル・ハイル(騎乗の羊飼い)」と呼ばれたように、
遊牧の民として一日の大半を馬上で過ごしたといいますが、
そんな誇り高きシャウイの騎兵を、ジャケット画が象徴しているかのようです。
Aissa Djermouni "GENRE CHAOUI" Edition Ouarda Phone 3001
Aissa Djermouni "LABSSAT LARHAFF" Edition Ouarda Phone 3002