コサ・ヌエストラの新作にやや不満を抱きながら、
一緒に手に入れたこちらを続けて聴いたら、思わず満面笑顔になってしまいました。
そうそう、コサ・ヌエストラの新作に欲しかったのは、この濃厚な味わいなんですよ。
どんどん洗練されて薄口になるラテン世界のなかで、
ペルーのクリオージョ音楽は、唯一無比といえる野趣な味わいを保つ、希有な大衆音楽。
その稀少性に感じ入っているからこそ、ぜひその良さを生かしてほしいと願うファンには、
まさしくうってつけのアルバムなのでした。
しかも、歌っているのが、前回話題にあげたばかりのバルデロマール兄弟と
女性歌手のバルトーラなのだから、役者は揃ったってなもんです。
3人とも堂々たる歌いっぷりで、ディープな味わいながら、
けっして暑苦しくならない歌い口とキレのよさに、1曲終わるたび、タメ息がもれます。
特に嬉しかったのが、ぼくのごひいきのバルトーラが、
以前と変わらぬ歌いっぷりを聞かせてくれていること。
かつて、クリオージョ音楽という枠を超えて、
ラテン世界で最高の女性歌手と入れ込んでいたエバ・アイジョンが、
2010年前後あたりのアルバムから、声に衰えを隠せなくなり、
それを補うためか歌いぶりが粗くなってきたのを、とても残念に思っていただけに、
バルトーラの太く揺るがない声の魅力に、嬉しくなりました。
これまでぼくは、バルトーラがエバ・アイジョンの後進の歌手だとばかり思っていたんですけれど、
調べてみたら、なんとエバよりひとつ年上なんですね。これには、びっくり。
バルトーラのソロ作を聴いたのは、02年のイエンプサ盤が最初で、
すでにヴェテランの域を感じさせる歌声に、相当なキャリアを持つ人と思えましたけれど、
ソロ作が少なく、どういう経歴か知らないままだったんですよね。
本作では、ニコメデス・サンタ・クルース、ラファエル・オテロ・ロペス、カルロス・アイレといった
クリオージョ音楽の名作曲家たちによるバルスを中心に、フェステーホ、ポルカなども歌っています。
切れ味たっぷりのギターの音色に加えて、フェリックスが叩くカホンに、
カスタネット、カヒータの響きがサウンドをさらに華麗にしていて、う~ん、血が沸き立ちますねえ。
季節が秋めいて、乾いた風がひんやりと感じる今日この頃にぴったりの、
クリオージョ音楽ファンに最高の名作です。
Bartola Y Los Hnos. Valdelomar "LLÉVAME CONTIGO" no label no number (2013)