こちらは、アメリカのヴェトナム人コミュニティで活躍する越境歌手です。
あでやかなアオザイのジャケットに引かれて曲目を見ると、
アルバム・ラストのタイトルの横に、「カイルオン」と書かれていますよ。これは期待できますね。
同い年に出たもう1枚のアルバムと合わせて、買ってみました。
冒頭から、歌謡ショーの世界そのもの。
いいですねえ。この大衆味は得難いものがありますよ。
ここ最近のヴェトナム本国の抒情歌謡が、
ホーチミンに暮らす都会人のノスタルジアを感じさせる傾向を感じさせますけれど、
こちらはもっと田舎の庶民的な演歌モードでしょうか。
主役のバン・タムは、81年2月3日ホーチミン生まれ。
94年に両親とともにアメリカへ移住し、カリフォルニア、オレンジ・カウンティで
歌手として成長した人とのことで、越境シーンでカイルオンも歌える人というと、
フーン・トゥイがいましたけれど、彼女よりもさらに若いんですね。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-12-21
ダン・バウ(一弦琴)、ダン・チャン(箏)、ダン・ニー(胡弓)、ティウ(笛)など、
ヴェトナムの伝統楽器をたっぷりフィーチャーしたオーケストレーションのアレンジも鉄板で、
アジア歌謡のなかでも、とりわけデリケイトな世界を繰り広げてくれますよ。
タンコ(欧米風と伝統調がスイッチする男女掛け合い歌)では、
なんと大ヴェテランのフーン・ランがゲストで登場します。
ギター・フィムロン、ダン・バウ(1弦琴)、ダン・キム(月琴)など、
ヴェトナム独特のゆらぐ弦が入り乱れる演奏をバックに、
たっぷりとこぶしを利かせたヴォンコ調の歌いぶりを披露して
フーン・ランと渡り合っているのだから、大したものです。
アルバム・ラストは、32分に及ぶカイルオン。
さすがにこれを楽しむには、言葉の壁があって、日本人には厳しいですが、
バン・タムの語りは歌声と変わらぬ愁いを含んだ柔らかな表情で、引き込まれます。
相方を務める男性の穏やかな歌い口にも、ヴェトナム人の心優しさを感じさせますね。
劇中歌の長尺の曲が並んだ“ÐÊM SẦU ÐÂU” に対して、
“EM VẪN… HOÀI YÊU ANH” の方は、歌謡アルバム。
ヴェトナム歌謡の保守王道まっしぐらな完成度の高いプロダクションで、
郷愁味たっぷりのバラード世界を楽しませてくれます。
Băng Tâm "ÐÊM SẦU ÐÂU" Asia Entertainment no number (2015)
Băng Tâm "EM VẪN… HOÀI YÊU ANH" Asia Entertainment no number (2015)