傑作。
1曲目でそう確信しました。
セネガル老舗楽団オーケストラ・バオバブの復活第3作。
01年復活後のアルバムで、これ、最高作じゃないですか。
前作“MADE IN DAKAR” から10年ぶりという、長いインターバルで届けられた新作は、
昨年11月に突然亡くなった歌手ンジュガ・ジェンに捧げられています。
当初、日本盤の発売元が「ンディウガ・ディエン」と告知したので、
なんじゃそのカナ読みはと呆れたんですけど、
聞けば、セネガルでレコ掘りしたことのある有名なマニアの人が、
そう書いていたからとのこと。
やれやれ、半可通ここに極まれりですね。それじゃ、そのマニアの方は、
「ドゥドゥ・ンディアエ・ローズ」とか「ケレティギ・ディアバテ」と読むんでしょうか。
dia diou die は「ジャ」「ジュ」「ジェ」と読むことくらい、知っといてほしいなあ。
というわけで、「ンジュガ・ジェン」に訂正してもらいました。
それにしても、ンジュガ・ジェンの死から、
間を置かず新作が届けられたのには驚きました。
傑作と確信させられた1曲目の“Foulo” は、
初期の72年頃に録音された“Kanoute” の改題曲。
元の曲はシラール盤の2枚組“LA BELLE EPOQUE” で聴くことができますが、
オリジナルをはるかに凌ぐヴァージョンに仕上がっているじゃないですか。
どうです、この熟成したまろやかなサウンド。
アフリカ広しといえど、これほど芳醇な味わいは、ほかじゃ味わえません。
テナー・サックスとアルト・サックスの2管が生み出す、香しいヴィンテージ・サウンド。
太く男性的なイサ・シソコのテナー、シャープなチェルノ・コイテのアルトともに、
前々作、前作を凌ぐブロウを聞かせていて、ウナらされました。
ご両人とも、長い音楽人生で、今が最高潮にあるんじゃないでしょうかねえ。
さらに、今作の最大のトピックは、
老舗楽団のバオバブが過去の焼き直しに終始することなく、
新たにコラを導入するという展開をみせたこと。
ダンス・バンドがあえて伝統楽器を取り入れるというこの心意気に、
グッときましたねえ。過去の遺産に安住せず、変化を求めて、
またひとつ新たなスタイルを獲得していくという、その姿勢。
これこそ02年復活作のタイトル
“SPECIALIST IN ALL STYLES” の面目躍如じゃないですか。
コラがバオバブ・サウンドにこれほどしっくり馴染むとは、正直意外でした。
ンジュガ・ジェンが亡くなり、往年の名歌手レイ・ンバウプばりのヴォーカルを聞かせた
アサーン・ンバウプや、メドゥーン・ジャロも不在となったのはさびしい気もしましたが、
歌手がバラ・シディベとルディ・ゴミスの二人に絞られたのは、むしろ好印象。
歌手が多すぎた前2作より、
個性の違う二人だけの方が曲調の違いにも映え、すっきり聞けます。
二人のコーラスをオーヴァー・ダブして、厚みのあるハーモニーを作り上げたり、
コラを二重奏にしたりと、細部に手を加えた丁寧な制作ぶりは、
スタジオ・セッションでさっと仕上げた
“SPECIALIST IN ALL STYLES” との違いが明らかです。
この春アフリカの注目作が目白押しですけれど、なかでも最高の1作、
全アフリカン・ポップス・ファン必聴でっす!
P.S. 明日オフィス・サンビーニャから発売されるライス盤には、
件のマニアの方が書いた『スペシャリスト・イン・オール・スタイルズ』
日本盤(ワーナー)ライナーの誤りを訂正した、やかましい(?)解説が付いてます。
Orchestra Baobab "TRIBUTE TO NDIOUGA DIENG" World Circuit WCD092 (2017)