音楽って、出会いだなあと、つくづく思いますね。
自分の守備範囲だけしか聞かずにいたら、
こんなポスト・パンクな轟音に満ち溢れたアルバムと
出会うチャンスなんて、まずなかったと思うんですよ。
キコ・ジヌスィの本ソロ・デビュー作に出会う発端となったのは、ロムロ・フローエス。
このサンパウロの前衛サンバ作家に惚れこんでいたぼくは、
ロムロが参加しているグループ、パッソ・トルトも聴き、
パッソ・トルト一派の音楽性に、とても惹かれていました。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-04-29
そのパッソ・トルトのメンバー、キコ・ジヌスィがソロ作を出したというので、
買ってみたんですが、飛び出してきたサウンドが、
見事なまでにポスト・パンクだったので、ビックリしてしまいました。
まったく不案内な音楽ゆえ、最後まで聴き通せるかしらと思ったんですが、
意外にも、当方もかすかながら持ち合わせているロック魂に火が点き、
いえ~ぃ!と盛り上がってしまったのですよ。
曲の構成が序破急か、てなほどメリハリが利いていて、冗長さ皆無。
アレンジがしっかりしていて、ムダな音がない。
ダークなムードの曲でもメロディアスなのは、パッソ・トルト一派の美点ですね。
曲ばかりでなく、ギターのリフも、アブストラクトな音列が並んでいるようで、
メロディはきれいなんだよなあ。こういうところにブラジルを感じますね。
激しく乱打するドラムス、咆哮するサックス、鬼のカッティングでかき鳴らすギター。
一点集中の突破力と肉体感溢れる出音が、胸をすきます。
破壊的な曲ばかりでなく、ユーモラスな曲調もあったりと、
いずれにせよ、アヴァンな音楽性で一本芯が通っています。
キコ・ジヌスィは、アドニラン・バルボーザやパウロ・ヴァンゾリーニなど、
パウリスタのサンビスタの影響をもろに感じさせるクルーナー・タイプの歌い手である一方、
ジョンゴやバトゥーキ、カンドンブレなどのアフロ・ブラジル音楽のリズムを再構築する、
前衛アフロ・ブラジル音楽ユニットのメター・メターでは、
トニー・アレンとも共演するという、多面的な音楽性の持ち主。
そんな豊かなバックグラウンドを持つキコだからこそ、
本作で発揮されるアヴァンなロックに、ぼくが夢中になれるのかもしれません。
手作り感溢れるペイパー・スリーヴの2色刷りジャケットは、
「黒/黄」、「オレンジ/黒」、「ピンク/ブルー」の3タイプがあり、
色合いのきれいなピンク/ブルーを買ったんですが、キコのサイトをのぞいてみたら、
この「ピンク/ブルー」が、どうやらデフォルトのよう。
キコのサイトでは、本作ほかパッソ・トルトやメター・メターなど、
これまでキコが関わったグループすべての音源が、フリー・ダウンロードできます。
本作にホレこみすぎて、メター・メターについては触れられませんでしたが、
またいずれ、別の機会にでも。
Kiko Dinucci "CORTES CURTOS" Red Bull Studios no number (2017)