南アの名サックス奏者ウィンストン・マンクンク・ンゴジの68年デビュー作
“YAKHAL' NKOMO” が、南アのガロからLPリイシューされたんですね。
発売5年で10万枚セールスを記録した、南アでもっとも売れたジャズ・レコードの
ひとつとして知られ、ジャズ・マニアには有名なアルバムです。
今回はLPのみのリイシューで、CDは出ていないようです。
ぼくは“YAKHAL' NKOMO” を、07年のリイシューCDで聴いていましたが、
このCDは、クリス・シルダー(スヒルデル?)・カルテットに、
マンクンクがフィーチャリングされた、
69年の“SPRING” をカップリングしたお徳用盤となっていました。
ジャケット・タイトルともに“YAKHAL' NKOMO” を踏襲していますが、
“SPRING” が丸ごと収録されています。
“YAKHAL' NKOMO” “SPRING” ともども、典型的なハードバップで、
マンクンクが心酔していたジョン・コルトレーンの影響色濃いアルバムとなっています。
拙著『ポップ・アフリカ700/800』に選ばなかったのは、
北米ジャズをまんまコピーした、「純」ハードバップ・アルバムだからで、
タウンシップ・ジャズのような大衆性のある南ア・ジャズの要素はなく、
有名盤ではありましたけれど、遠慮させていただきました。
43年西ケープ州リトリートに生まれたマンクンクは、
“YAKHAL' NKOMO” 録音当時まだ24歳でした。
血気盛んな年頃で、当時多くのジャズ・ミュージシャンが
海外へ亡命したのにも関わらず、マンクンクは仲間の誘いを断り、
南アにとどまって演奏活動を続けることにこだわりました。
マンクンクの南ア・ジャズらしいアルバムというと、もっとのちのアルバムで、
87年作の“JIKA” や98年作の“MOLO AFRICA” があります。
“JIKA” にはソロ・デビュー前のベキ・ムセレクも参加しているんですけれど、
南ア・ジャズの代表作という意味では、
ヒットした“MOLO AFRICA” を選ぶのが順当でしょうか。
う~ん、でもぼくはあんまり買っていないので、
これまた『ポップ・アフリカ700/800』には載せてないんですけどね。
この頃になると、マンクンクは豪放にブロウすることがなくなり、演奏もやや冗長なんです。
ヴェテラン・ピアニストのテテ・ンバンビサがいい感じでピアノを弾いているのに、
マンクンクがオーヴァー・ダブしたシンセサイザーがジャマして、耳ざわりなのも難。
コーラスを加えるなど、ポップな味付けをしたかったことは分かるんですが。
むしろ、完全アクースティックの編成で演奏した
03年の“ABANTWANA BE AFRIKA” の方が、落ち着いたサウンドで楽しめます。
ちなみに、ベースはハービー・ツオエリが務めています。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2016-11-24
心臓の持病を抱えていたマンクンクは、09年に66歳で亡くなってしまったので、
本作が遺作となりました。
マンクンク自身のサックスは、すっかりレイドバックしていますが、
南アにとどまり続けたジャズ・プレイヤーの気骨は、しっかり聴き取れますよ。
Mankunku "YAKHAL’ INKOMO" Gallo CDGSP3123 (1968)
Winston Mankunku "JIKA" Nkomo Music/Avan-Guard Music SVCD521 (1986)
Winston Mankunku Ngozi "MOLO AFRICA" Nkomo NK0010 (1998)
Winston Mankunku Ngozi "ABANTWANA BE AFRIKA" Sheer Sound SSCD098 (2003)