白日夢のようなサウンド。
ヘッドフォンから流れてくる甘美なエレピの響きに、
全身の細胞が泡立つのを覚えました。
この快感は、はるか昔、70年代に覚えがありますよ。
ダニー・オキーフの『そよ風の伝説』じゃないですか。
そう、「マグダレナ」でドニ・ハサウェイが弾いた、ウーリッツァーの響きです。
ほかにも、ミニー・リパートンの「ラヴィン・ユー」で
スティーヴィー・ワンダーが弾いた、エレピの音も思い出すなあ。
まごうことなき70年代サウンドを奏でるのは、
南カリフォルニア大学出身の若き3人組、ムーンチャイルドです。
すでに3作目といいますが、ぼくはこれが初体験。シビれました。
波間にたゆたう陽の光がきらめいて、
さまざまに表情を変えて行く映像を見るかのような、
キーボードとシンセサイザーが織りなす響き。
そのデリケイトな音の重なりが絶妙で、ため息がこぼれます。
鍵盤楽器の音の層が重ねられたり、さっと後退したりを繰り返すなかで、
ひそやかにギターが爪弾かれ、木管楽器の柔らかなリフが添えられます。
アクースティックな音像を浮き彫りにしながら、
その裏でエレクトロニックなビートが、秘めやかに鳴らされているんですね。
このエレクトロなグルーヴは、ディープ・ハウスやクロスオーヴァーの諸作、
たとえばオム・レコーズのカスケイドとか、
ネイキッド・ミュージックのブルー・シックスと共通するセンスを感じさせます。
鍵盤系の選び抜かれた音色や、統一感のあるサウンドは、
クラブ・ミュージックを通過した世代ならではでしょう。
こればかりは、70年代にはありませんでしたよね。
ネオ・ソウルにエレクトロのマナーとジャズのセンスを取り入れた
ムーンチャイルドのサウンドは、現実と幻の境を見失う甘美さに溢れています。
ウィスパリング・ヴォイスの女性ヴォーカリストが、
ふわふわした綿菓子のような歌声で夢見心地に誘い、天空へも上る気分。
「ソフト&メロウ」から「チル&メロウ」へ。
時代とともに形容は変われど、メロウネスの快楽は永遠です。
Moonchild "VOYAGER" Tru Thoughts TRUCD341 (2017)