ニュー・ヨークで新たに誕生したオスティナート・レコーズは要注目です。
カーボ・ヴェルデの70~80年代音源をコンパイルした
“SYNTHESIZE THE SOUL: ASTRO-ATLANTIC HYPNOTICA
FROM THE CAPE VERDE ISLANDS 1973-1988” は、
確かな審美眼をうかがわせる選曲で、
ずっと無視していたのを、深く後悔させられました。
この内容だったら、『レコード・コレクターズ』誌にも紹介すべきだったなあ。
ずっとスルーしていたのは、タイトルを見て、去年アナログ・アフリカがリリースした、
カーボ・ヴェルデのコンピレーションと同趣旨の内容と思い込んでしまったから。
あれ、しょうもないモンド盤だったもんなあ。
最近アナログ・アフリカがコンパイルするCDは、
先日出たカメルーンのマコッサのコンピレーションもそうでしたけど、
B・C級とすらいえない駄曲ばかりセレクトしていて、ウンザリさせられます。
カーボ・ヴェルデものも、チープなシンセを使い始めた時期の録音を、
「コズミック・サウンド」などと称して面白がっているような内容でしたよね。
こういうイロモノを見る目で、
アフリカン・ポップスにアプローチする態度って、ヤだなあ。
カメルーンのフランシス・ベベイを、宅録エレクトロ趣味で再評価するのとかさぁ。
というわけで、「シンセサイズ」「アストロ」「ヒプノティカ」といったフレーズを
タイトルに散りばめたオスティナート盤も、
どうせ愚にもつかぬモンド盤だろうと、早とちりしてしまったわけなんですが、
レーベルを主宰するヴィック・ソーホニーの選曲は確かでした。
カーボ・ヴェルデ独立前後の熱気あふれる若者たちによる、
エレクトリック化されたコラデイラやフナナーが詰まっていて、
アナログ・アフリカの上っ面のサウンドを面白がるような視点と、次元が違います。
この人、ちゃんと音楽を聴いてるなという信頼感を持てますね。
すっかり感心して、フェイスブックでヴイックさんにコンタクトしてみたら、
この人、インド生まれで、タイ、シンガポール、フィリピンで育った人なんですね。
ニュー・ヨークの大学院を卒業した後、ドイツ、アフリカ、ハイチで仕事をし、
多文化の中で育ち、仕事をしてきた自身の体験とも重なって、
移民がポップスへ果たしてきた役割に、目が向くようになったといいます。
カーボ・ヴェルデ独立直後のエレクトリック・ポップに注目したのも、
リスボン、パリ、ロッテルダム、ボストンへ渡ったカーボ・ヴェルデ移民が、
本国の島にはなかった新しいポップスをクリエイトした過程に、興味を抱いたからとのこと。
独立後エミグレのカーボ・ヴェルデのミュージシャンたちは、
欧米で手に入れた電子楽器を島に持ち込む一方、
本国の伝統リズムを学ぶために、地方の農村や漁村を旅するようになったそうです。
そこで壊れたアコーディオンがシンセサイザーに置き換わり、
島と欧米の移民社会との間に、
文化的なサプライ・チェーンが築かれたと、ヴィックはいいます。
エレクトリック・フナナーも、そうした歴史の中から誕生したわけなんですね。
カーボ・ヴェルデ音楽の電子化のキー・マンとして、
アナログ・アフリカ盤と同じくパウリーノ・ヴィエイラに注目しながら、
選曲にこれだけ差が生まれるのは、単なるセンスの問題ではなく、
移民社会との文化交流に目を向けた、ヴィックの視点の確かさによるものでしょうね。
ヴィックは、オスティナート・レコードを立ち上げる以前、
アナログ・アフリカのサミー・ベン・レジェブとも一緒に仕事をして、
“ANGOLA SOUNDTRACK” や“BAMBARA MYSTIC SOUL” などを手がけています。
最近では、フローラン・マッツォレーニ監修のミスター・ボンゴ盤の
マリ音楽のコンピレーションも、ヴィックが選曲をしていたんですね。
そんな彼が、カーボ・ヴェルデに続いて、失われたソマリ音楽の復刻にアプローチ。
素晴らしい仕事をしてくれました。これについては、次回ご紹介しますね。
V.A. "SYNTHESIZE THE SOUL: ASTRO-ATLANTIC HYPNOTICA FROM THE CAPE VERDE ISLANDS 1973-1988" Ostinato OSTCD002