『ギター・マガジン』がおもしろい。
注目したきっかけは、「恋する歌謡曲」と題した今年の4月号。
ろくにクレジットされてこなかった歌謡曲のバックのギターにスポットをあてて、
山口百恵の「プレイバック part2」や中森明菜の「少女A」、
寺尾聰の「ルビーの指環」を分析する切り口も斬新なら、
チャーと野口五郎との対談や、歌謡曲のギター名フレーズなどなど、
これまで過小評価されていた歌謡曲のギター・プレイに注目した名企画でした。
その後も、モータウンのギタリストを特集したりと、企画が秀逸なうえ、
毎回100ページを超すという熱の入れようで、掘り下げ方がハンパない。
「最近の音楽雑誌は面白くない」とボヤく人には、『ギター・マガジン』を薦めています。
そんでもって、今回の9月号が、またスゴかった。
なんと、ジャマイカのギタリスト特集。
なんて地味なところに、焦点を当ててくれたんでしょうか。
スカ~ロック・ステデイ~レゲエに至るギター・インストの名盤を掘り下げ、
当時のジャマイカのギタリストたちが愛用した、安物のビザール・ギターを分析し、
アーネスト・ラングリン、リン・テイト、アール・チナ・スミス、
マイキー・チャン、ハックス・ブラウンのインタヴューをとるという、徹底ぶり。
これを画期的といわずに、なんというかってくらいのもんです。
メントやカリプソまで掘り下げていて、レゲエ・ファンのみならず、
ワールド・ファン必携の永久保存版でしょう。
ジャマイカのギター・インスト盤は、本号にすみずみまで取り上げられているので、
ちょっと違った角度からのインスト・レゲエ盤を
本号に敬意を表して、ご紹介しようと思います。
それがこのスペイン、バレンシア出身のギタリスト、アルベルト・タリンのアルバム。
え? スペイン人? と思うかもしれませんが、
ジャマイカ音楽を演奏する日本人ギタリストが、本号のインタヴューにも、
5人も登場しているくらいですからね。スペインにいたって不思議はありません。
アルベルト・タリンは、スペインにおけるレゲエ・バンドのパイオニア的存在で、
リタ・マーリーがスペインでコンサートをした際に共演もしています。
ギターはオーソドックスなジャズ・ギターのスタイルで、
ジョージ・ベンソン直系といったプレイを聞かせます。
02年の本作は、タイトルどおり、ジャズのスタンダード・ナンバーを中心に、
レゲエ・アレンジで演奏した内容で、“You'd Be So Nice To Come Home To”
“Days Of Wine And Roses” “Old Devil Moon” “Someone To Watch Over Me”
のほか、ボサーノーヴァの“Desafinado” にジョン・レノンの“Imagine”、
そしてアルバム・ラストは、マーリーの“Slave Driver” で締めくくっています。
選曲があまりにヒネりがなさすぎで、聴く前はどんなものかと思いましたが、
ジャズ・ギタリストがお遊びでやったなんていうレヴェルではない、
本格的なレゲエ・アルバムとなっていて、すっかり感心。
バックのメンバーも全員スペイン人のようですが、演奏水準はメチャ高くて、
即お気に入りアルバムとなったのでした。
本号にも紹介されている
リントン・クウェシ・ジョンソンのダブ・バンドのギタリスト、
ジョン・カパイのソロ・アルバムと似た仕上がりと思ってもらえればいいかな。
あのアルバムが好きな人ならゼッタイの、知られざる傑作です。
Alberto Tarin "JAZZIN’ REGGAE" Spanish Town no number (2002)