パリで活動しているアンゴラ人ディアスポラの親指ピアニスト、ルーレンドの新作です。
前作から10年ぶり、ずいぶんと長いインターヴァルでのリリースですが、
日本盤が出るのは今回が初めて。こりゃあ、めでたい。
拙著『ポップ・アフリカ800』に、01年のデビュー作を載せた時は、
ルレンドと書いたんですが、ライスのリリース・インフォメーションにルーレンドと記され、
こちらのカナ読みが正しいことに、いまごろ気付きました。
おわびして訂正させていただきたいと思います。
デビュー作は、ルーレンドが書くメロディアスな楽曲を、
彼の親指ピアノをベースに、ビリンバウやタマ、ンゴニを演奏するパーカッショニストや、
その他メンバーがニュアンス豊かなリズムで彩っていました。
センバといったアンゴラ色はあまり感じさせず、
ルーレンドのソフトな歌声が、繊細な感性をよく伝えるアフロ・ポップ作でしたね。
一方、セカンドは、がらっとメンバーを変え、ドラムスにキーボード、ギター、
打ち込みも取り入れて、エッジの立ったポップ・サウンドに変貌し、
デビュー作の良い意味でのナイーヴな感触は、だいぶ減ってしまいました。
サックスやヴァイオリン、ペダル・スティールなどのゲストも加わって、
サウンドが華やかになり、ルーレンドも歌に専念する曲が多くなり、
親指ピアノを弾く曲が少なくなってしまいました。
3作目は、セカンド作と同じメンバーのリズム・セクションとギターに、
ルーレンドの4人というシンプルな編成で、
観客を入れずにライヴ・セッションしたアルバム。
レパートリーは2作収録曲の再演で、やはりセカンドからの曲は歌のみになっています。
そして10年ぶりの新作は、なんとトニー・アレンがゲストで2曲ドラムスを叩いています。
プロデュースとアレンジは、トニー・アレンのバンドでギターを弾いている
カメルーン人のインディ・ディボング。その縁でトニーを呼んできたというわけか。
トニー・アレンばかりでなく、トニーの新作で大活躍だったサックス奏者、
ヤン・ジョンキエレヴィックスも呼ばれていて、
テナー、アルト、バリトンに加え、トロンボーンも吹いています。
原点回帰して、デビュー作同様、ルーレンドの親指ピアノをメインに据えたところが、いい。
時にエフェクトを施しつつも、コノノのようにやりすぎることはありません。
トニー・アレンともう一人のドラマーも共通して、
ビートが丸っこくふくよかで、ルーレンドの音楽性との相性はばっちり。
管楽器を効果的に使いながら、鍵盤などで音を塗り固めないヌケのいいサウンドで、
ルーレンドらしい朗らかなアフロ・ポップに仕上げています。
ルーレンドが弾く親指ピアノは、過去3作ではリケンベとクレジットされていましたが、
今回の新作では、キサンジと書かれています。
リケンベはコンゴ民主共和国で広く見られる名前ですが、
キサンジはアンゴラでの一般的な名称で、チタンジと呼ばれることもあります。
リケンベもキサンジも構造としては、くりぬいた本体に蓋をして共鳴空間を作ったもので、
同じタイプの親指ピアノです。
コンゴ民主共和国にも、アンゴラ国境付近にイサンジと呼ばれる親指ピアノがあるので、
同系の民族による名称なのかもしれません。
ルーレンドもアンゴラ北部マケラ・ド・ゾンボ出身の
コンゴ人(国籍ではなく民族名)の家系ですからね。
祖父からコンゴの儀式を受けてから、
親指ピアノのテクニックを習ってきたという人であります。
Lulendo "MWINDA" Buda 5767421 (2017)
Lulendo "À QUI PROFITE LE CRIME?" Nola Musique 82220-2 (2001)
Lulendo "ANGOLA" Nola Musique 3017263 (2005)
Lulendo "LIVE SESSIONS" Nola Musique NM107 (2007)