すんばらし。
1曲目を聴き終え、タメ息がもれました。
ヴァイオリンがむせび泣くイントロから、
滑り出すように歌い始めるトゥイ・ティエンの歌い口に、はや降参です。
レー・クエンによって、すっかりヴェトナム歌謡の一大潮流となった、
ボレーロ(ヴェトナム戦争前の抒情歌謡)の新作であります。
変形横長ジャケット内には、トゥイ・ティエンのブロマイドが3枚入っていて、
経年劣化したふうのデザインが、いかにもボレーロらしい演出となっています。
トゥイ・ティエンというこの女性歌手、はじめて知りましたが、
85年生まれ、南部メコン・デルタのタイランド湾に面する
港湾都市ラック・ザーの出身とのこと。
モデルで女優でもあり、コンサドーレ札幌でプレーした経験を持つ、
元ヴェトナム代表のサッカー選手レー・コン・ヴィンと、14年に結婚しています。
トゥイ・ティエンは、おもにバラードを歌うポップ・シンガーで、
時にEDM歌謡なども歌うアイドル的存在だったようですが、
夫になったレー・コー・ヴィンが大のボレーロ好きで、
トゥイ・ティエンに、ボレーロを歌うことを強く薦めたんだそうです。
本人は、大人向けの歌手へ転身する自信がなく、
ボレーロを歌うことに相当抵抗を示したようなんですが、
制作に3年を費やし、レー・コン・ヴィンが選曲やアレンジの助言もして、
完成にこぎつけたのが本作とのこと。
ジャケット裏には、レー・コン・ヴィンの名がエディターとしてクレジットされています。
しっとりとした情感のある歌い口で、丁寧にメロディを織り上げ、
ゆらぐヴィブラート使いも美しく、いい歌いぶりじゃないですか。
自信がなかったといいますが、見事な歌いぶりです。
また、佳曲揃いのレパートリーもいいですねえ。
レー・コー・ヴィンの選曲、シュミ合うなあ。
美人の奥さんに自分の好きな歌を歌わせるなんざ、男の夢ですな。
Thuỷ Tiên "ĐÔI MẮT NGƯƠI XƯA" Bến Thành no number (2017)