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集団即興の快感 ティム・バーン

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Tim Berne's Snakeoil  INCIDENTALS.jpg

おととしだったか、ジャズCDショップへ行ったところ、
ECMのコーナーが出来ていて、へーえ、ECMがまたそんな人気なのかと、
すっかりジャズ事情に疎くなった自分を思い知らされたものでした。
あらためて、そのコーナーでECMの作品を眺めていたら、
ティム・バーンの名前を見つけて、びっくり。

フリー・インプロヴァイザー、NY・ダウンタウン派の首領ティム・バーンが、
今はECMから作品を出しているのか!
ティム・バーンといえば、JTMと思ってましたけど、
今やそれも遠い昔のことで、時の流れを感じます。
考えてみれば、もう20年近くティム・バーンを聴いてないんだっけ。
それじゃあと、14年作の“YOU'VE BEEN WATCHING ME” を買ってみたのでした。

聴き始め早々から、ダークなトーンに、気分は急低下。
ああ、もうこういう「内省的」というか、「思わせぶり」なフリー・ジャズは、まっぴら。
「辛気臭い」のとか、「もったいぶってる」のとか、
昔さんざん聴いて、全部処分したもんね。
幽玄な空気感はECMゆえなんだろうけど、長い静寂がかったるく、
燃え上がるようで燃え上がらないのも、
せっかちな性分なもんで、じれったくってしょうがない。

そもそも、オーネット・コールマンの高速/凶暴/爆音カヴァー・アルバム、
ジョン・ゾーンの“SPY VS. SPY” (89)で、ティム・バーンにシビれたクチなんでねえ。
ティム・バーンにECMは合わないだろと、結論付けたんでありました。

再会に失敗したものだから、
昨年新作が出ていたことも、ぜんぜん気付かずにいたんですが、
偶然耳にできたのはラッキーでした。
ぼくの好きなティム・バーンと、やっと再会できましたよ。
新作は、なんと前作“YOU'VE BEEN WATCHING ME” と同じ日の録音。
ところが、内容は前作と違って、こちらはめちゃくちゃアグレッシヴ。
こっちを後回しにリリースするのが、ECMというレーベルの性格なんですね、はあ。

曲というより、調性の無いギクシャクとした音列をループさせるようなコンポジションを、
ティムのアルト・サックス、クラリネット、ピアノがレイヤーしながら、
旋律をさまざまに変奏させていきます。リズムもポリリズミックに進行しながら、
即興が次第に熱を帯びていき、絶頂に達したところで起こる、崩壊の美しさといったら。
緊張と解放を行き来する集団即興の快感を、たっぷりと味わえます。

作曲と即興のバランスもいいですね。
メンバーが介入したり、離れていったりしながら、細かい旋律を動かしていくところなど、
作曲なのか、即興なのか、判然としないところが、またスリリング。

あえて個人的な好みを言えば、
1曲目の もったいぶった 思索的な冒頭なんかカットして、
4分01秒からの合奏が始まるところからに編集しちゃいたいところですけれどね。
ティムの粘っこいアルトのトーンは昔と変わらず、
獰猛に吠えもすれば、からっとしたユーモアもある。最高です。

Tim Berne’s Snakeoil "INCIDENTALS" EMI ECM2579 (2017)

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