写真家/音楽評論家の石田昌隆さんが、
「ミュージック・マガジン」1月号に書かれたイスラエル訪問記は、
ひさしぶりに音楽好奇心を思いっ切りくすぐられる、刺激的な読み物でした。
最近何かと話題になるイスラエルですけれど、
石田さんが取材されたドゥドゥ・タッサという音楽家にガゼン興味がわいて、
記事に紹介されていたCD2枚を、イスラエルにさっそくオーダー。
年末をはさんだせいか、ひと月近くかかりましたが、無事到着しました。
ロック・シンガーというドゥドゥ・タッサが、
普段どんなロックを歌っているのかはまったく知りませんが。
今回手に入れた2枚のアルバムは、30~40年代にイラクで人気を博した
サレハ&ダウド・アル・クウェイティ兄弟の曲を現代化してカヴァーしたものです。
サレハはドゥドゥの大叔父で、ダウドは祖父なんだそうです。
ドゥドゥ・タッサはイラク系のイスラエル人で、
アラブ世界をルーツとするオリエント系ユダヤ人、すなわちミズラヒムなのですね。
多数派アシュケナジーのイスラエルで、
ミズラヒムを標榜するような音楽をやるのが困難だった時代は、
ようやく終わろうとしているのを実感します。
クォーター・トゥ・アフリカの登場といい、なんだか感慨深いものがあります。
その昔、人気女性歌手のゼハヴァ・ベンが
ウム・クルスームのカヴァー・アルバムを出して、
コンサートを開いた時も、大騒ぎになったもんなあ。
日本の新聞にも記事が載ったほどですからね
それぐらい、イスラエルでアラブ音楽をやることは、はばかれたということです。
じっさいゼハヴァは、いくつかのアラブ諸国からボイコットも受けていましたしね。
ゼハヴァ・ベンは、モロッカン・ジューイッシュの家系のミズラヒムで、
デビュー作の表紙にも、“Hebrew Arabic Maroccan” とくっきり書くほど、
ミズラヒムのシンガーであることを内外に示して登場した、肝の据わった人でした。
ウム・クルスームに敬意を表して歌うことは、彼女だからこそでしたね。
石田さんの記事によると、ドゥドゥ・タッサはアラビア語を話せないものの、
アラビア語で歌っていて、その無頼な歌いっぷりは、
シャアビやライのシンガーを思わす味わいがあって、ゾクゾクしちゃいました。
11年作の7曲目や15年作の4曲目なんて、まるでハレドみたいじゃないですか。
いやあ、いい歌い手ですねえ。
アラブふうのこぶし回しも、なかなかのもので、
ほんとにイスラエル人?とか思っちゃいました。
パレスチナ人3人を含むバンドのザ・クウェイティスは、
いにしえのアラブ歌謡に、ロック・バンド・サウンドをアダプトして聞かせたり、
ウード、ヴァイオリン、カーヌーンといったアラブの弦の響きをいかした
さまざまなアレンジで、古きアラブ歌謡の味わいを濃密に抽出します。
これほどアラブ音楽の核心を捉えて、現代化に成功した作品もないんじゃないかな。
ラシッド・タハの『ディワン』を軽く超えちゃいましたね。
変則チューニングのギター伴奏で歌う曲では、
スラックキー・ギターのようなサウンドに耳を奪われたり、
アラブ古典の弦セレクションとコーラスを配した
アラビック・レゲエが、途中でバルカンに越境するような曲があったりと、
多彩なサウンド・カラーリングにも才能を感じさせます。
アレンジがどれも小手先の器用さではなく、
濃厚なアラブの味わいがドロリと滴り落ちてくるところがスゴイ。
すごい人、見つけてきたなあ、石田さん。さすがです。
Dudu Tassa & The Kuwaits "DUDU TASSA & THE KUWAITS" Sisu Home Ent./Hed-Arzi 64989 (2011)
Dudu Tassa & The Kuwaits "ALA SHAWATI" Sisu Home Ent./Hed-Arzi 08650562H (2015)
Zehava Ben "LOOKING FORWARD" ABCD Music CD010 (1994)
Zehava Ben "SINGS OUM-KALSOUM" Helicon 88105 (1995)