今のアフリカ音楽絶好調の頂点に、この男がいる。
胸を張ってそう言える、傑作です。
いや、ぼくが胸を張ったところで、しょうがないんですけれどもね。
08年のデビュー作“MANY THINGS” から数えて4作目。
デビュー作にして、父から譲り受けたアフロビートを完璧に蘇らせたシェウン。
アフロビートを継承する才能のない、兄の不甲斐ないアルバム(新作もダメ)に、
さんざん付き合わされてきただけに、
シェウンの登場は、本当にカンゲキしたものでした。
アルバムを重ねながら、ブレることなく、
みずからのアフロビートを深め続けるシェウンは、頼もしい限りです。
今回のアルバムは8曲を収録し、LPでは2枚組で出ていますけれど、
これが親父のフェラ・クティだったら、アルバム4枚分に匹敵する内容ですよ。
そう思わずにおれないのは、1曲がすごくコンパクトにアレンジされているからなんですね。
冒頭の“Last Revolutionary” から、イントロすぐにヴォーカルと女性コーラスが飛び出し、
いきなりクライマックスへ上り詰めるのに、
「は、早い、早すぎる!」と口走りたくなるほど。
これがフェラのレコードなら、嵐の前の静けさのような、
バンドのリズム・セクションの演奏から始まるのが常で、
ホーン・セクションが激しいリフを奏でるまでに、ゆうに5~6分はかかり、
フェラのヴォーカルや女性コーラスが登場するのには、さらに2~3分演奏が続くのが定石。
レコード片面いっぱいの曲が、わずか6~9分の演奏に凝縮されているのだから、
曲が始まるなり、いきなりクライマックスの早漏感を、どうしたって覚えます。
とはいえ、フェラ・クティ未体験の、1曲3分のポップス・ファンにとっては、
これでも十分長い曲に聞こえるでしょうけれどねえ。
ワールド・ミュージック・ファンなら、
ヌスラット・ファテ・アリー・ハーンのリアルワールド盤みたいな編集といえば、
うなずいてくれるかしらん。
前作から4年というインターヴァルも、
アルバム4枚分の内容が凝縮されているかと思えば、ナットク感がありますよね。
前作にあった、ハイライフをやるような温故知新の試みやヒップホップへの接近はなく、
先に言ったとおり、アルバム片面ヴァージョンで聞いてみたいと思わせる
正統アフロビートの強力な8トラックが並びます。
(ウィズキッドよ、“African Dreams” をこころして聴くように)
ドラムスとホーン・セクションがユニゾンで進行する“Kuku Kee Me” など、
今作は、リズム・セクションとホーン・セクションの緊密な絡みがスゴい。
タイトル曲でゲストのカルロス・サンターナがギター・ソロを弾いていても、
あえてギター・ソロのためのスペースを空けず、
そこで勝手に弾いてろ式のアレンジにしているのがいいんだな。
そのために、ギターとホーンの音がぶつかりまくって、
混雑したサウンドになるんですけれど、これが大正解。
凡庸なプロデューサーは、こういうところをきれいに交通整理しちゃうんだけど、
それだと、バンドもゲストのギターも、双方のエネルギーを削ぐことにしかなりません。
シェウンのヴォーカルと各楽器間は、分離のいいミックスになっていますが、
バンドの一体感は損われずに重厚なグルーヴを生み出していて、
アフロビートのエネルギーを最大限に生かしたサウンドとなっています。
プロデューサーのロバート・グラスパー(クレジットはなく、謝辞のみに名前があり)が、
どういう仕事をしたのか不明ですが、こうしたところに寄与したのなら、グッジョブです。
Seun Kuti & Egypt 80 "BLACK TIMES" Strut STRUT163CD (2018)