アフロ・ブラジレイロ文化揺りかごの地バイーアから、
ブラックネスを前面に押し出した、大型新人のデビューです。
マルガレッチ・メネージス以来ですかね、こういうタイプのシンガーは。
インパクト大のジャケット(画像はブラジル盤、日本盤は全身写真です)に、
聴く前からワクワクしながら、プレイ・ボタンを押しましたよ。
いきなり冒頭から、バタが登場するという、ブラジルらしからぬ意表を突く展開。
う~ん、さすがは、意識高い系のシンガーらしい演出。
バタは、ナイジェリア、ヨルバの宗教音楽で使われる神聖な打楽器。
キューバで生まれた楽器ではなく、
アフリカからキューバに渡った楽器だということはご存知ですよね。
キューバでは、カトリックと混淆した宗教儀式サンテリアで
バタが使われて有名になりましたけれど、
ブラジルのカトリックと混淆したカンドンブレでは、バタを使うことはありません。
カンドンブレでは、縦長の胴に上面皮を張ったアタバーキという、
ブラジル生まれの打楽器が主に使われるので、
アフロ(ヨルバ)・ルーツをより明確にするために、あえてバタを起用したんでしょうね。
こうしたサウンド・メイキングに、
シェニアのアフロ・ルーツへのメッセージが明確に聴き取れますけれど、
シェニアのヴォーカルに黒さは感じられず、
マルガレッチのようなパワフルな歌いぶりを期待すると、拍子抜けするかも。
本作の聴きどころは、歌ではなく、プロダクションの方にあります。
バイーア生まれのネイティヴな黒人性より、
サンパウロ育ちの中で身に付けた、知的な黒人文化の解釈が勝った作品なんですね。
プロデュースは、J・ディラ以降のビート感覚を共有する、
ブラジル新世代ジャズのキー・パーソンとして注目を浴びる、ロウレンソ・レベッチス。
よれたリズムや細かく割ったビート感は、同時代感覚のジャズのセンスに富んでいて、
イマドキのジャズ・ファンにも強くアピールするはず。
ヴィクトール・カブラルのドラミングなんて、もろにクリス・デイヴです。
エレクトロなビート音がとにかく心地よいアルバムで、
シンセ・ベースがアフロ・フューチャリズム的なサウンドを聞かせたり、
アタバーキやアゴゴなどの生音を装飾的に配置するアイディアも、すごくイマっぽい。
エレピとシンセでレイヤーしたサウンドのメロウネスぶりなんて、もろにネオ・ソウル。
一方、管楽器のアレンジは、コンテンポラリー・ジャズのマナーで、
ハービー・ハンコックの“SPEAK LIKE A CHILD” を思い浮かべたり、
マリア・シュナイダーのラージ・アンサンブルに共通するものを感じさせたりと
ふんだんなアイディアを詰め込んだハイブロウなサウンドに、頭がクラクラしてきます。
かと思えば、懐かしの名曲“Tereza Guerreira” を歌っているのにも、感激。
バイーアが生んだ男性ポップ・デュオ、アントニオ・カルロス&ジョカフィの
73年作に収録されていた曲です。古手のブラジル音楽ファンなら、
日本盤LP『サンバと風と女たち』を愛聴した人も多いはず。
シェニアが生まれるよりずっと前の、バイーア・ポップの傑作ですけれど、
どこでこの曲を知ったのかな。
近年のレパートリーでは、チブレスの“Minha História” を取り上げていますね。
オリジナル・ヴァージョンのアフロビート・マナーとは趣向を変えたクールな仕上がりで、
これまた、おおっ!となったのでした。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-03-14
アフロ・ブラジレイロ音楽で、
これほどまでジャズ的な展開を試みた作品は、初じゃないでしょうか。
ビート・センス、サウンド・カラーリング、ラージ・アンサンブル・アレンジと、
徹底して今日的なサウンドを追及した傑作です。
Xenia França "XENIA" Agogô Cultural AGOCD02 (2017)