もう一人、奇特なライ・シンガーがいたのを思い出しました。
こちらも古いオラン・スタイルのライを生演奏で聞かせる人で、
パリを拠点に活動している、かなり年配の歌手です。
アコーディオンとガスバに、たっぷりとした弦セクションをフィーチャーした、
オーセンティックなスタイルのポップ・ライをやる一方で、
サルサあり、ジャズあり、レゲエあり、グナーワあり、ヒップホップありと、
まさしくワールド・ミュージックなレパートリーが詰まっています。
サルサやジャズ、レゲエの達者な演奏ぶりは、
フランス人ミュージシャンのレヴェルの高さを示すもので、
その洗練されたサウンドのクオリティは、ライ新作としては抜きんでています。
レゲエ・ナンバーでウードをフィーチャーするアイディアもツボにはまっているし、
ホーン・セクションをたっぷりフィーチャーしたグナーワ・ナンバーは、
初期のオルケストル・ナシオナル・ド・バルベスをホウフツとさせます。
クレジットされたミュージシャンは、総勢50名を超すという豪華さで、
これほど力の入った制作は、今日びのライ新作では、ちょっと見当たらないでしょう。
解説がまたふるっていて、フランス語、英語、ドイツ語、スペイン語、アラビア語、
中国語、ロシア語で書かれていて、世界市場を相手にしているといわんばかり。
ソフィアン・サイーディほどレトロ志向は強くなく、
コンテンポラリーなサウンドで魅力を打ち出そうとしているようで、
幅広い客層を取り込もうという意欲がうかがわれます。
世界各地をツアーしているものの、
故郷のアルジェリアでは販路が見つからないらしく、
どうやら本国では無名の存在みたいですね。
ソフィアン・サイーディがライナ・ライなら、
シ・カメルはオルケストル・ナシオナル・ド・バルベスを思わせるということで、
どちらも聴き応え十分の力作。
本国アルジェリアからは登場しえない、パリ発のユニークなアルバムです。
Si Kamel "DREAM" Cesam International no number (2016)